オンラインで方程式を解いていく これが未来の数学の学び方だ

前回、緊急事態宣言中の「双方向オンライン授業のススメ」について書きましたが、今回は、オンライン授業の問題点と具体例を掘り下げたいと思います。

これまでの【竹内薫のトライリンガル教育】はこちら

Zoomオンライン授業のトラブルシューティング

まずは問題点から。すでに書きましたが、配信のみの一方向オンライン授業は、基本的にはテレビと同じです。YES International Schoolでは、緊急事態宣言前に英語と英語算数(=英語でやる算数)の授業をYouTubeで配信しました。この時点での問題点は、ただ一つ。「編集」です。授業の動画を撮影して、そのまま配信すると、「生放送」なら流せる部分も、粗が目立ってしまうのです。ゆえに、かなりの時間を割いて、編集してから配信しなくてはいけません。

私の仕事でいえば、生の講演会であれば、言い間違いや言葉に詰まる場面があっても、水差しからコップに水を注いで、喉を潤してリセットできますが、講演録を会報に載せるとなれば、かなり編集をしないといけないわけです。それと同じで、一方向の授業配信だからと高をくくっていると、保護者から「杜撰」というご指摘をいただいてしまいます。

次に、Zoomを使った双方向授業の問題点です(すでに書きましたので、少々、くりかえしになります)。とにかくセキュリティ対策をきちんと講ずる必要があります。家の玄関の鍵をかけなければ、出入りが簡単ですが、泥棒さんも侵入して来るでしょう。だからみんな、玄関の鍵はきちんと閉めるわけです。同様にZoom授業も、パスワードで保護し、しかも授業開始まではホストもURLがわからないような二重、三重のセキュリティ対策が必要です。

Zoom双方向授業を実際に2ヶ月間やってみて、人間的な問題があることに気づきました。小学生の場合とくにそうなのですが、リアルな授業と比べて集中が持続しません。実際にはリアルな対面授業の場合、10分くらい集中したら誰かが消しゴムを落としたりトイレに行ったりして、みんなの集中が途切れ、また集中するという具合に緩急の波があるのだと思います。ところがZoomだと、ずっと画面や練習問題に釘付けとなり、20分ほどで集中力を使い果たしてしまうのです。

これは大人でもそうですね。私が出演しているTBS系「ひるおび!」では、緊急事態宣言後もコメンテーターのリモート出演が続いており、集中力を保つのに苦労しています。リアルなスタジオでは、司会の恵さんの目線などで、「そろそろコメントを求められそうだな」という雰囲気を察知できるのですが、リモートだと、まあ、空気が読めないのです。つまり、2時間の生放送中、CMの時間を除き、常にスタンバイ状態となり、疲労度が高いのです。

ましてや、もともと集中力が続かない小学生のことですから、長くて20分が限界です。このことに気づいてから、教職員には「20分で休憩を入れて、全体で45分くらいの授業にしてください」と指示を出しました。

 

別のトラブルもあります。これは学校側ではどうしようもないのですが、ご家庭によっては、インターネット回線がどうしても不安定になってしまうのです。とくに、お父さんとお母さんがともにリモートワークでインターネットにつないで会議をしているような状況だと、Zoom授業の画面がフリーズしがちになったりします。あるいは、もともと住宅のインターネット回線もしくはWi-Fiが不安定な場合もあります。

この「つながらない」ことによるストレスは、かなり大きいです。生徒や保護者だけでなく、授業をしている先生や、裏方でZoomを見守っている職員もストレスが溜まります。残念ながら、この問題に関しては、ご家庭で回線を増強するなどの対策を講じていただくしかないのが実情です。

 

さらにトラブルは続きます。回線の問題を抱えるご家庭や、分散登校が始まっても自宅でZoom授業を希望されるご家庭の場合、「授業を録画で見たい」というご要望があるのです。すでにYouTubeのところで触れましたが、「編集なし」で録画を配信することは可能です。ところが、今度は、Zoomの録画容量の制限があり、自動的にどんどん授業を録画しておくと、あっという間に容量がいっぱいになってしまうのです。

もちろん、古い録画から自動的に消去する設定がありますが、担当職員がうまく設定しないと、不具合が生じてしまいます。

「Wolfram Cloud」を使ったオンライン授業

さて、トラブシューティングについてはこれくらいにして、Zoom双方向授業の具体例にも触れておきましょう。私が担当している高学年の算数の授業です。オンラインになってから、私の授業は進化しました。

当初は、Wolfram Alphaで遊んでいましたが、1ヶ月ほど経つころには、かなり本格的な数学プログラミングの授業になってしまったのです。

私はもともと物理畑の人間なので、Mathematicaという数学プログラミング言語(=Wolfram言語)のユーザーです。個人で使うには、かなり値が張るサービスなので、ライセンス更新をどうするか考えあぐねていたところ、オンラインとデスクトップをつないだ新サービスがあることを知りました。

Wolfram|Oneというそのサービスは、インターネット上でMathematicaが使える「Wolfram Cloud」と、デスクトップ上のWolfram Desktopをシームレスにつないだものでした。

私は研究目的ではなく、何週間もぶっ続けで一つの計算を実行する必要もありません。あくまでも小学生と一緒に数学プログラミングの授業をやるのに必要なのです。そこで、私は有料サービスのWolfram|Oneを使いつつ、生徒たちは無料のWolfram Cloudに登録してもらい、さまざまな練習問題をやりました。

まずは、算数ドリルでやるような足し算、引き算、掛け算、割り算をWolfram Cloudに命令します。それから、小学校では教わらない「数学」にどんどん入っていきます。たとえば、(x+y)を二乗して展開したり、逆に展開形を因数分解したり。

次は方程式を解いていきます。一次方程式から始めて、二次方程式もやってしまいます。Solveという命令で、どんな方程式でも解いてくれるので便利です。途中経過を見ることもできます。

こうやって、紙を鉛筆の代わりにWolfram言語を使うことにより、子どもたちは、高等数学をパソコンで「いじって遊ぶ」ことが可能になります。これまでの算数の授業のように、基礎から始めて、何百回も同じパターンの計算のドリルをこなし、長い長い時間をかけて中学・高校の数学に辿り着くという、まだるっこい方法は、もはや時代遅れです。

Wolfram言語で数学世界を探検することにより、小学生でも、平気で微分積分を「操作する」ことが可能です。こうやって、最先端のツールを駆使して、計算ができるようになってから、じっくりと概念的な部分を補っていけばいい。

これが、私が提案し、実践している、未来の数学の学び方です。これは旧来の数学ではありません。プログラミングでもありません。「数学プログラミング」という新たな世界がインターネット上に出現しているのです。
(次回は、Wolfram言語を用いた円周率の計算などをご紹介したいと思います。)

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