途上国でも先進国でも。子どもの障害にどう向き合うかを考える「インクルーシブ教育」【世界を旅しながらその土地の教室に飛び込んでみた】

筆者は、世界20カ国以上の学校を見学してきましたが、途上国でも成熟国家でも共通して力を入れている取り組みがあります。それは「インクルーシブ教育」です。

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障害者の能力を最大限まで発達させる「インクルーシブ教育」

私はいままで世界20カ国以上の学校を見学してきました。フィンランドからインド、南米のボリビアまで、たくさんの学校を見てきました。経済的に発展途上中の国から、成熟してきた国までたくさんの国の教育を見てきましたが、教育にはそれぞれ個性があります。しかし途上国でも成熟国家でも共通して世界各国が力を入れている取り組みがありました。それは「インクルーシブ教育」です。

文部科学省によると、インクルーシブ教育はこのように説明されています。

「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system、署名時仮訳:包容する教育制度)とは、人間の多様性の尊重などの強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者がともに学ぶ仕組み (中略)
ーー文部科学省「特別支援教育の在り方に関する特別委員会報告」より引用

たくさんの教育を見て、感じたこと。それはインクルーシブ教育は世界全体の流れであるように感じます。今回は、フィンランドとフィリピンという一見まったく異なる国で感じたそれぞれの体験を話していきます。

制度が整いはじめた「フィリピンの特別支援学級」

フィリピンでは「インクルーシブ教育」どころか、特別支援教育すらまだまだ整っていないという現状があります。現地の人に話を聞いていると、障害を抱えた人が社会の中で生きていくには不自由がたくさんあると言っていました。

たとえば私はセブ市内の小学校を5つ回りましたが、特別支援学級のある小学校はあまり見かけません。一方でインクルーシブ教育のように、同じ学級内で障害を抱えた子どもも学んでいるという訳ではありません。

現地の人の話によると「そもそも障害を抱えた子どもが学べる場所があまりない」と話していました。各学校に特別支援学級があったり特別支援の専門の学校がある日本と、比べずにはいられませんでした。

しかし、そんな現状も近年少しずつ変わってきているそうです。セブ市内にあるザパテラ小学校。この小学校には近年、特別支援学級が作られました。セブ市内ではとても先進的な取り組みのようです。障害とは、主に「知的・精神・身体」の3つに分けられますが、この学級ではさまざまな障害を抱えた子どもたちがいました。

私は2週間この学校に滞在していたのですが、最終日に特別支援学級の生徒が私たちに歌をプレゼントしてくれました。サイモン&ガーファンクルの「明日にかける橋」。私自身、中学生のころによく聞いた思い出の曲でした。

彼は盲目の生徒でした。しかし彼はどれほどの時間を歌の練習に費やしたのでしょうか。彼の歌を聴いてる間、初めから終わりまで鳥肌が収まらないほど感動させられました。この生徒も、もしセブ島で特別支援学級が作られなかったら、このような機会はなかったかもしれません。

まだまだ教育において人手や資源の足りない国であるフィリピンですが、障害を抱えた子どもたちに対しても、教育を進めていくという流れが生まれていることを実感しました。

サポートが手厚いフィンランドの「インクルーシブ教育」

教育水準が極めて高い国として有名な国、フィンランド。筆者はフィンランドでも4都市、15以上の学校を訪れました。フィンランドでは「違いは個性である」という文化が強いと感じます。そんなフィンランドでは、どのような特別支援教育が行われているのでしょうか。

大まかな仕組みは日本に似ています。障害の大きさに合わせて、複数の学び方の候補があります。

  • 通常クラスで一緒に学ぶ
  • 学校内の特別支援学級で学ぶ
  • 特別支援専門の学校で学ぶ

大きくはこの3つです。日本も似ていますね。

一方で、日本とはいくつかの違いがあります。大きな特徴としては、通常クラスで学ぶ場合。そもそもフィンランドの小学校の平均的なクラス人数は約20人前後です。日本の平均より少ないため、先生が一人一人の生徒に対して取れる時間は日本よりも多い。

そしてフィンランドでは、通常クラスで障害を抱えた生徒が同じ空間で学ぶ場合。障害を抱えた生徒1人当たりに1人のサポート教員がクラスに入ります。手厚いサポートが特徴的です。

またデザイン大国であるフィンランドでは、学校内の空間設計も秀逸です。たとえば、集中することに困難がある子どもたちは、「周りにいろいろなモノがあったり、たくさんの人がいると集中しづらい」という特徴をもった子もいます。そんな特徴をもった子どもたちでも、集中したり気持ちを切り替えたりできるような空間設計がいたるところに見られます。

多くの小学校に通ずる特徴としては、廊下に学習スペースがあるところが多い。必ずしも教室の中で集中できなくても、廊下で1人ゆっくり課題に向き合えるようなスペースが設けられています。フィンランド中部イーサルミにある学校はさらに先進的でした。このように子どもたちにとってのパーソナルスペースが確保できるような場所が廊下のいたるところにありました。

フィンランドでは、先生の手厚いサポート体制や、学校の施設など、さまざまな観点で特別な支援を必要とする子どもたちも、健常な子どもたちとともに学びやすい仕組みが作られています。

取り組みは日本でも

フィリピン、フィンランドと一見異なる2つの国を見ていると「世界が向かおうとしている方向性」を見つめなおせます。ここでは割愛しますが、南米でも最貧国のひとつと言われるボリビアにも、特別支援学校はありました。

そして日本でもこの取り組みはどんどん進んでいます。大阪市にある「大空小学校」も先進的な活動をされている学校のひとつです。今後、地球全体がどのような社会にしていくべきかという問いを考える上で、先進国や途上国、異なる背景をもつ国の共通点を探すことは、大きなヒントになるかもしれません。

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