元バンク・オブ・アメリカに勤務していたときに、史上最年少で全米No.1セールスを達成した酒井レオ氏。本人曰く、金融教育=お金を増やすことではないと言います。では酒井氏が提唱する「お金の教育」とは、いったいどのようなものなのでしょうか。直接インタビューしました。
タイトル | 世界最新メソッドでお金に強い子どもに育てる方法 |
著者 | 酒井レオ |
出版社 | アスコム |
価格 | 1620円(税込) |
内容 | 「お金」を学ぶ→子どもの成長が加速!世界のトップエグゼクティブが行っているAI時代の子育て術。「お金」を知るだけで身につく、最強のグローバルスキル!!ハーバード大学など世界の一流大学も、これらの能力を重視して試験に導入! |
酒井レオ
ニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちのバイリンガル日系アメリカ人。米国政府公認NPO法人Pursue Your Dream Foundation(PYD)創業者およびLittle Monster Inc.共同経営者。日本とアメリカ両方の文化に影響を受けて育ち、ワシントン大学卒業後、JPモルガンを経て、コマース銀行(現TD銀行)に入社。その後、バンク・オブ・アメリカに転職し、2007年、史上最年少にして「全米No.1」の営業成績を達成。社内各賞を総なめにするとともに、30代前半の若さにしてヴァイスプレジデントに就任する。同年、アメリカンドリームに挑戦しようと渡米してくる人たちを応援したいとの思いから、NPO法人Pursue Your Dream Foundationを設立。銀行業界からグローバルビジネス教育の世界へ転身を果たす。2009年12月には、同法人日本支店として世界基準のスキルを身につけるためのリーダー育成機関「PYD Japan」を設立。金融、IT、メーカーなどあらゆる業界を対象に、社長・役員のためのエグゼクティブコーチングから、マネージメント研修、新人研修まで幅広く指導を行っている(書籍の略歴より)。
全米No1.バンカーが考える、お金の教育とは?
みなさんは金融教育というと、どのようなイメージがあるでしょうか。日本では今「貯蓄から投資へ」という言葉がさかんに叫ばれていることから、「株式投資」「資産運用」というイメージをもつお父さんお母さんも多いかもしれませんね。
しかし、『全米No1.バンカーが教える 世界最新メソッドで お金に強い子どもに育てる方法』の著者・酒井レオさんが提唱するお金の教育は、そんな狭い範囲のものではなく、私たちが生きていく上でもっと大切で、ベースとなってくるもの。つまり、お金について正しい知識を得ることで、子どもがさらに成長する糧になると言うのです。だからこそ、子どもだけでなく親もキチンとお金に対して学ばないといけない、と酒井さんは言います。
では、酒井さんがそのような考えに至ったのはどうしてなのでしょうか?お話をうかがいました。
究極のバイリンガルが見つけたグローバルスタンダード
――酒井さんはニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ち。ご両親が日本の方なんですよね?
はい。両親が日本人の日系アメリカ人です。私が子どものころの父は、昔ながらの侍スピリットをもつとても厳格な人でした。母も温和な中にも芯の強さをもった女性で、アメリカで生まれながらも、日本人の両親から日本のマインドを強く引き継ぎながら育ってきたと思います。
――大学を卒業後は金融業界に就職され、「バンク・オブ・アメリカ」時代には、全米No1の営業成績を史上最年少で達成されています。成績は最初からよかったのですか?
いいえ、はじめはなかなか結果を出せずに、苛立ちを感じたこともありました。
私は日系アメリカ人というのは、究極のバイリンガルだと思っているんです。なぜなら、ドイツ語、フランス語などヨーロッパ圏の似ている言葉をいくつできても使う脳ミソは同じですが、日本語と英語はまったく違います。右脳も左脳もフル回転しなければ話せませんし、文化も感情の表し方も、日本とアメリカではまったく違います。当時私は、世界経済の2トップであった「アメリカ」と「日本」の両方の武器を持っていたはずなのに、社会人になってしばらくは、それを活かせずにいました。
――そこからどうやって、全米No1.バンカーにいたるまでになったのでしょうか。
あるアメリカ人上司に「見せ方次第」と言われたんです。日本とアメリカは本当に真逆です。アメリカでは、自分のことを全面的にアピールする傾向がありますが、日本人はすごく謙虚で、自分の気持ちを抑えるところがあります。私は厳格な父から教わってきた「人として大事なこと、正しいこと」を愚直に実践していましたが、アメリカではそれだけではなく、その場に合わせて自分のどんな部分を出していくのか。自分のどの部分に、どのくらい光を当てるのか。その度合ですよね。アメリカで成功している人というのは、その場に応じた「見せ方」が上手だということに気がついたのです。
――そして見事に結果を出し、その後、アメリカでNPO法人Pursue Your Dream Foundation(PYD)を設立されますね。
銀行員として、さまざまな人種、業界の人たちと接する中で、世界で成功している人たちには、あるグローバルスタンダードがあることがわかったんです。それを自分なりにカリキュラム化したのがPYDです。2009年には日本でもPYD JAPAN株式会社を立ち上げました。日本では常識だと思われていることでも、実は他の考え方ややり方もあるかもしれない。「こうでなければいけない」という既成概念を覆し、自分で戦っていくスキルを身につけてほしいという気持ちで、学生から社長クラスまでのビジネスパーソンの教育に取り組んでいます。
――そこからなぜ、今回は子どもの教育本を手がけられたのでしょうか?
この本は子どもの教育本ですが、実はまずは親に勉強してほしいという気持ちがあります。なぜなら、会社の研修をやっていて感じるのは、まずはトップが理解していないと、その下の部長、若手社員にも伝わらず、会社は何も変わらないということです。それは、親と子も同じです。親がまず、そのステージに行っていないと、子どもに教えることができません。20代、30代の親世代にこの本を読んでもらい、もっと若い世代をパワーアップさせていきたい。子どもの教育本ではあるけれど、親子セットで学び、もっとお金に強くなってほしいという気持ちが根底にあります。
「お金の教育」=「投資教育」ではない!
――今回の著書『世界最新メソッドでお金に強い子どもに育てる方法』というタイトルだけを見ると、一瞬「投資の本なのかな?」という印象をもちますが、実際はそうではないですよね。酒井さんの考える「お金について学ぶ」とは、どういうことなのでしょうか?
日本人はまじめなので、お金のことを学ぶというとすぐ「投資」に結びつけてしまうところがあると思うのですが、そういうことではなく、もっと根本的に世界がどうやって回っているのかという知識をつけていかなければいけないと思っています。そのツールのひとつが「お金」なのです。
本にも書きましたが、「time is money, money is power, power of freedom」という言葉があります。時間はお金であり、お金があると権力につながり、権力があると自由が手に入る。そして自由が手に入ると時間が生まれ、また最初に戻っていきます。この循環の原点はお金です。お金はすべてのことの源であり、すべてのことにつながっているのです。
勘違いしてほしくないのは、「お金の本」というと、株で一攫千金を狙う方法といった類の本を思い浮かべるかもしれませんが、そういうことではないんです。お金儲けしたいとお金を追いかけるだけでは、お金は決して寄ってきません。「誰かの問題を解決してあげること」がお金につながるんです。お金と言うと、「汚いもの」「お金がなくても幸せ」などと言う人もいますが、自分がやりたいことをやるには、お金は必要なものです。だからこそ、お金について学び、お金の価値を知り、よい循環を生んで行ってほしいと思います。
それには、「情報に対してお金を払う」ということも必要になってくることもあるでしょう。日本はものづくりの文化なので、物にはすぐお金を払うのに、情報にはなかなかお金を払わない傾向がありますよね。タダの情報にはタダなりの理由があるので、情報をお金で買うということも、当たり前のことだと思ってほしい。
アメリカでも学校では金融の授業はない。お金の教育は親の責任
――日本で金融教育が進まない理由として、日本の学校教育でなされていないという点があるような気がしています。
アメリカの学校でもファイナンスやバンキングの授業はありませんよ。お金の教育は親が子にするものです。たとえば、アメリカのお金持ちは、子どもが生まれたときに、子ども用に国債を買うんです。国債はたしかにお金なんだけれど、18歳まで換金できません。すると子どもは“お金なのになぜ?”と疑問をもちますよね。そこで、これは国に貸しているお金で、18歳まで触らないことで何%あがるんだよという話を、7、8歳くらいから普通にしているんです。
また、子どもがあるゲームに興味を示したとしたら、ただ「おもしろいね!」「すごいね!」と言うだけではなく、そのゲームを作っている会社はどれくらい稼いでいると思う?と子どもに聞いてみるんです。すると、子どもは「稼ぐってなに?」と疑問をもち、そこからもまたお金について親子で考える機会が生まれます。(アメリカでは)そういう家庭でのしくみができているのです。
――では、日本の問題点は、学校教育にあるわけではなくて、親から子へ伝わっていないということですね。
親自体がお金について知らないのだと思います。おそらく日本の一般的な親に、今日の日経平均を聞いても答えられないでしょうし、それが世界とどうつながっているかもわからない人がほとんどでしょう。自分の会社には関係ないと思っているかもしれませんが、そんなわけがありません。世界中の仕事がお金でつながっているのですから。
自分の会社や日本だけに目を向けるのではなく、もっと親自身が「なぜ」という疑問をもって考えることが必要だと思います。もっと知りたいと感じ、情報と情報をつないでいく。そこには必ずお金が関わってくるのです。
子どもが興味をもった分野から、大人も一緒に広げていく
――では、まずは親が学び、そして親から子どもへお金のことを伝えて行くには、どんなことからはじめるのがいいでしょうか。
子どもの好きなことから、経済の話を広げていくのがいいのではないでしょうか。たとえば、お子さんがサッカーが好きで、本田圭佑のファンだったとします。だったら、今彼はどんなところに投資しているのか、なぜそこに投資しているのかということを、親が話せたらいいですよね。子どもの興味のあることが、ファッションだったり他のことだったりしても同じです。すべてのことはお金と結びついているので、親がもっとそのことについてリサーチするべきです。「なぜ」という疑問をもち、子どもが好きなことがもつストーリーを親子で共有できれば、伸びるのではないでしょうか。
――それはいつごろからはじめるのはよいですか?
早ければ早いほうがいいですが、たとえば小学校1年生の場合、その話を親が小学校1年生レベルまで落とすのは難しいでしょう。世の中がわかってきた5年生くらいからでしょうか。
ただ、1年生にも数字を聞くことはできます。たとえば、子どもがお菓子がほしいと言ったときに、「このお菓子はいくらすると思う?」「このりんごはいくらすると思う?」と聞いていくと、同じものでも日やお店によって値段が違うことに気づけるでしょう。
また、小学校3、4年生くらいになったら、こんどはレストランに行ったときに、たとえば、ポークとビーフが同じ値段だったとしたら、本来はビーフの値段が圧倒的に高いはずなのになぜ同じなんだと思う?などと考えさせることで、経営の話にも話が及ぶかもしれません。そうなると、よりスパイラルがよくなっていくでしょう。かならずしもファイナンスの話ではなくても、もっと身近なところから広げていけばいいのです。
テクノロジーだけではなく、ヒューマンスキルも育むSTEAM教育
――最後にひとつお聞きしたいのですが、酒井さんが運営するPYDでは、STEAM教育に取り組まれていますよね?
“STEM教育”ではなく、ARTを加えた“STEAM教育”を推奨するのはなぜなのでしょうか。
STEM教育は、Sience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとった言葉で、ただプログラミングを学ぶのではなく、これらを横断的に学んでいくことが大事だと思っています。ただ、STEM教育だと、左脳に偏ってしまう可能性があります。そうすると、まじめでドライな性格の典型的なエンジニアになってしまいます。
そこで、Artを入れることによって、右脳と左脳の両方を使えて、スマートでありながらも、より人として優しさをもてると思うのです。これからの時代に求められるのは柔軟な考え方ができるコミュニケーション能力のある人材です。それには、アートを加えたSTEAM教育が必要だと思っています。
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今回の著書には、世界で活躍できる子どもを育てるための、具体的なメソットが多数紹介されています。私たち親もこの本で学び、子どもと一緒にレベルアップしていければと思います。