子どもが税金を払い、使い方を決め、街を運営する、成人は立入り禁止の「こどものまち」。このプログジェクトは「こどものまちをつくろう」などを主催した「NPOこどもDIY部」が豊島区の公園などで実施しました。
大人が立入禁止の「こどものまち」とは
みなさんは、大人がいない“子どもだけの街”を想像したことがありますか?役所など街の運営も、仕事をしてお金を稼ぐのも、稼いだお金から税金を払うのも、全部子どもたちで行う街です。
ちょっと大変そうに感じるかもしれませんが、どんな仕事を選び、働いたお金をどう使うのかも子どもたちの自由。ここには、あれこれ口を出す大人は存在しません。誰に邪魔されることもなく、自由な発想で、自分が好きなことに好きなだけ集中できるのです。
「大人があれこれ口出ししないこと」がポリシー
そんな、子どもたちにとっては夢のような「こどものまち」を、期間限定イベントとして、2015年から年に1回開催し続けている人がいます。NPOこどもDIY部代表のさかたともえさんです。
さかたさんが代表を務める「NPOこどもDIY部」では、「こどものまち」のほかにも、平日の放課後に子どもたちが自由にものづくりをして過ごす会員制の「こどもDIY部」をベースに、子ども主体の料理教室「タベルノクラス」、子どものアイデアの種を育てる「子どもスタートアップ塾」など、さまざまな活動を行っています。
”ものづくり”という観点から、子どもたちの自主性を育てることを目的に活動している「NPOこどもDIY部」。そのポリシーは、「大人があれこれ口出ししないこと」! 聞いただけでなんだか、ワクワクしますよね。今回はそんな、子どもの“やってみたい気持ち”を大切に、子どもの自主性を重視した活動をする「NPOこどもDIY部」の取り組みについて、代表のさかたともえさんにお話をうかがいました。
自分の子どもにやらせたいことはなんだろう? からはじまった放課後「こどもDIY部」
さかたさんが「NPOこどもDIY部」を立ち上げたのは2013年。一番上の娘さんが小学校4年生にあがるタイミングでした。今でこそ「こどものまち」をはじめ、さまざまなイベントを展開している「NPOこどもDIY部」ですが、もともとは放課後の“預かり”のような形でスタートを切ったのだそう。
「当時、私が住んでいる地域では、学童保育が小学校3年生までで終わりだったんです。それで、4年生以降は塾に通うことを検討される家庭が多いなか、長女はまったく学習塾には興味を示しませんでした。だったら、うちの子にやらせたいことってなにかな?と考えはじめたのが、そもそものはじまりです」
また、共働き家庭にとっては、それまで長期休暇や放課後を過ごしていた学童が、4年生にあがった途端にぱたりとなくなってしまうことはすごく不安なことなのではないかと考えたさかたさんは、娘さんの同級生のご家庭にもヒアリングを実施し、まずは自宅で5、6人の子どもを預かるところからスタート。そこから、さかたさん自身が建築士の資格をもっていたことから、「ものづくり」活動をするようになり、放課後に自由工作をする「こどもDIY部」ができたのだそう。
「立ち上げ当初は、区の施設を借りていましたが、4年ほど前から、現在のアトリエを構えました。平日の放課後に会員の子どもたちがやってきて、木、布、革、発泡スチロールなどの素材を使って、自由に工作を楽しんでいます。どうしてもなにを作ったらいいかわからない子には、こちらから提案をすることもありますが、基本的には、なにを作るかは子どもたちにお任せです。大人があれこれ指示を出すことなく、“何でも意見が言えて、やりたいことができる場所”を提供することで、子どもたちに自分の好きなことや熱中できることを見つけてもらえたらいいなと思っています」
現在はここから派生した「タベルノクラス」「さんすう工作部」など、子どもたちの“やってみたい”という気持ちを大切にした別のクラスの活動も行っているそうです。
大人が口出ししないまち「こどものまち」
そんなNPOこどもDIY部が、2015年から年に1回開催しているのが、冒頭で紹介した、大人が立入禁止の子どもだけの街「こどものまち」です。
「ここでは、入っていい大人は研修を受けたボランティアスタッフのみ。付き添いの親は入れません。こどものまちでは、子どもたちがハローワークで仕事を見つけ、働き、お給料をもらい、その中からしっかりと20%を税金として支払います。給料はもちろん、こどものまちの中だけで使える仮想の通貨ですが、仕事がうまくできるようになると時給もアップしますし、子どもたちは自分で稼いだお金でこどものまちの中で買い物できます。今年のこどものまちでは、役所が税金で大工に椅子とテーブルを作ることを発注し、ちょっとした休憩所ができていました。そんなお金の使い道も、子どもたちが自分たちで考えます」
今の子どもたちは塾や習いごとで日々忙しく、どうしても親に管理される毎日を送る中で、「こどものまち」の体験を通して、社会のしくみを知ることはもちろん、自分の頭で考え、行動する力を養えると言います。
「今年は、3月の下旬から4月上旬にかけて、10日間こどものまちを開催しました。最終日は100人以上の子どもたちが訪れ、“学校や普通の街ではできないことがたくさんあった”“全部自分で決められる”などの感想をもらって、子どもたちの満足度も高かったようです」
「こどものまち」をさらに深く掘り下げるラボ
また、「こどものまち」では、ハローワークで仕事を探すほかに、自分で起業をすることもできます。しかし、イベント中は時間も限られていることから、せっかくキラリと光るアイデアがあっても、どうしても稚拙な状態で終わってしまうことが多いといいます。
「そこで、もっと少人数で、子どもたちのアイデアを深く掘り下げられないかと、2019年の1月から『こどもスタートアップ塾』をスタートさせました。これは、こどものまちの常設版という位置づけで、子どもたちにweb上の仮想の街で起業をしてもらいます。こどものまちでは、基本的に大人は口を出しませんが、こちらは連続講座形式で、毎回さまざまな分野で活躍するプロを講師に招き、子どものアイデアの種を引き出し、育てるところをしっかりと大人が伴走していきます。今後、自分の会社で実際に商品を作り出す子どもが現れたら、実際にインターネットを通して、販売もできるようにしていくつもりです」
さらに「こどもスタートアップ塾」の他にも、こどものまちで販売するものの「商品開発」を目的に、週末にアトリエに革やキャンドルといったものづくりの先生を招いて、商品開発に取り組むラボもスタートさせたそう。
「こちらも、こどものまちの中だけで作ると、やはり時間もないし、クオリティも決して高いとは言えません。そこで、もっとじっくりとこどもたちのニーズを探り、売れるモノを作っていきたいと、今年の1月からはじめました」
自分の意見をしっかりと発信できる力を育みたい
6年前に放課後の預かりからはじまり、子どもたちの自主性を大切に、活動の幅を広げてきた「NPOこどもDIY部」。この活動を通して、さかたさんはどんな子どもを育てたいと思っているのでしょうか。
「どんどん時代が変わっていく中で、日本の教育はもっと“自分の意見を言える人”を育てる方向に変わるべきだと私は思っています。プログラミングでも英語でも、発信したいことがなければ使うことができません。だから私は、大人があれこれ口出しせず、どんどん自分の意見を言ってもいいんだよ、発信していいんだよ、という場を作っていきたいと思っています。そして、子どもたちから出たアイデアをしっかりと受け止め、興味をもって接すること。そうすることで、子どもたちは自信をもち、自分の表現ができるようになっていきますし、それが、自分の意見をしっかり言える力へとつながっていくと思うのです」
また、子どもたちはこんな素晴らしいアイデアをもっているということを、こどもDIY部のSNSなどを使って、どんどん世間に発信していきたいといいます。
「現代は、SNSを使って自分の意見を発信することで、それまで知らなかった人ともつながっていける時代です。私はこの感覚を、小学生のうちからもっていてほしいと思っています。ですから、まずは私が子どもたちのアイデアをこどもDIY部のSNSで発信し、それに興味をもった大人とこどもDIY部をつないでいく。そうすることで子どもたちは、自分の考えを発信することで、人とつながることができるということを体感し、それがこの先の子どもたちの発信力にもつながっていくと思っています」
貯蓄だけでなく、お金を流通させる体験を
そんなさかたさんは、次はどんなことにチャレンジしてみたいと考えているのでしょうか。
「子どもの金融教育に興味があります。なぜなら、今の子どもたちは、基本的に“貯めることがよし”という教育を受けているので、こどものまちでも、お金を貯め込んでしまい、お金が回らないんです。今年のこどものまちでは、デパートもゲーム屋さんも、お金が回らなくて倒産寸前になりました。ただ欲しいものを買うのではなく、誰から買うか、社会貢献のために投資する気持ちで買うことも大事です。その結果として、実際にまちが変化する体験ができたらものの見方が変わりそうですよね。よい先生がいれば、ぜひこどもスタートアップ塾のような形で、金融教育のラボをやってみたいですね。リスクのないこどものまちだからこそ、どんどん投資にもチャレンジしてほしいと思っています」
また、2020年のこどものまちは、「としまえん」での開催を目指して動いているそう。今後のこどもDIY部の活動に、注目ですね!
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(写真:三條康貴)