現地校に通わせて分かったアメリカの教育事情【シリコンバレーのSTEM教育】

2018年3月までアメリカのシリコンバレーの小学校に子どもを通わせていた経験をもとに、シリコンバレーにおけるSTEM教育の実際についてレポートします。第1回はSTEM教育で使われている機材や教材についてです。

アメリカ・シリコンバレーのSTEM教育事情

はじめまして、菊地 仁です。私は2018年3月までアメリカ・シリコンバレーに駐在し、息子を2年半ほど現地の小学校に通わせていました。

そこで、ITビジネスの最先端である「シリコンバレー」において、STEM教育がどうなっていたのか、数回に分けてお伝えします。

まず第1回は現地校に通わせる親の目線から、子どもたちがどういった機材や教材で学んでいるのかについてのレポートです。

税収に比例する学校の教育レベル

アメリカの義務教育は12年制(K12)で、カリフォルニア州では幼稚園(K)→小学校(1-5学年)→ミドルスクール(6-8学年)→ハイスクール(9-12学年)と進学していきます。

アメリカでは、国や州よりも、学区の権限が非常に大きいのが特徴です

学区の境界は市などの地方自治体ごとに決められており、すべての義務教育は無料で提供。運営資金の大半は地方自治体の税収から賄われるわれるため、地価が高く税収の多い学区のほうが、教育予算は潤沢になります。そして教育レベルが高い学区には、高収入・高学歴の人々が住むようになり、地価がさらに上がり、学校がより充実していきます。

シリコンバレーの親たちは「GreatSchools」などの格付けサイトをチェックして、家賃水準も考えて学区を決めていくのです。我が家の場合は、アップル本社のあるクパチーノ学区にしました。

クパチーノ学区のSTEM教育は担任次第

クパチーノ学区は、日本人や中国・インドなどのアジア系移民に人気の学区で、低学年から教育に熱心な学区です。

各学年の達成水準は学区が細かく規定しますが、実際のやり方はクラス担任の裁量にまかせています。つまりSTEM教育をどう設計するかはクラスの担任次第、ということになります。

保護者がアップル社の社員だったり大手IT企業だったりする土地柄もあって、クラス担任もパソコンの活用を意識しています。学区のIT予算はほぼゼロ※のため、コンピューター室にある古いパソコンを大事に使いながら、パートタイムのパソコン担当教師がクラス担任をサポート。

経費は保護者会からの寄付です。

※会計監査報告書によると、予算の9割が人件費と管理費に使われており、図書館に配備する本やメディア、パソコンには予算の1%しか使われていません。

パソコンを使った遊びから学ぶアメリカの子どもたち

2年生、3年生の子どもたちはクラス担任と週2、3回ほど図書館に移動し、タイピングレッスンをしたり、自己紹介をパソコンで打ち込み印刷してクラスに張り出したり、国語(英語)や算数を学校や自宅のパソコンで学ばせたりしていました。

内容はさまざまで、ゲームだったりスペリングだったり、算数だったり物語だったり、飽きさせないような工夫がされています。ここでは特徴的なウェブサイトをいくつか挙げてみます。

Raz-Kids

移民や駐在員の多いクパチーノでは、子どもたちの言語スキルがマチマチです。

ELD(英語育成プログラム対象)の子どもは特別授業を受け、Readingを多くこなすことが求められます。Raz-Kidsは5年生までのコンテンツが充実していて、英語力を育成したい日本の子どもたちにもオススメです。

Typing Club

「ブラインドタイピングをマスターするのは早いほうがよい」ーー2年生のときのクラス担任はそう言ってこのサイトを薦めてきました。

息子は結局マスターできませんでしたが、そういった機会を低学年から与えるのはいいな、と思いました。

Code Studio

2年生以上が対象で、ゲームを通じてブロックプログラミングの基礎を学びます。

マインクラフト、スターウォーズ、アナと雪の女王など有名キャラクターを使ったチュートリアルが充実。

興味がある子どもにはScratchやmicro:bitなどへの動線も用意されています。

アメリカと日本の考え方の違い

これら、アメリカの小学校低学年のSTEM教育で共通するポイントは以下の2つです。

  1. コストが寄付で賄える程度の金額か、無償であるということ
  2. 担任は各生徒の進捗管理ができ、保護者も子どもの進捗をパソコンやスマホからいつでも見守ること

パソコンやSTEMを特別なものとせず、担任と保護者が相談しながら、子どもたちの興味をうまく呼び起こすツールとしてITを使いこなす、そんなスタイルが徹底されているように感じます。

小学校の段階で科学への興味を植え付けられた子どもは、高校のSTEM教科で好成績を収める可能性が高いそうです。一方、アメリカ現地校の算数・理科の進み方は日本の小学校のカリキュラムよりも遅く、父親として心配な部分もあります。

ですが、知識やテクニックの習得にはこだわらず、子どものリテラシーをムリなく養うという意味で、アメリカは一歩進んでいるのではないかと思いました。

次回は、息子の通っていた4th Grade(小学4年生)クラスにおけるITとインターネット活用についてレポートします。