緊急事態宣言も明け、もっとも遅かった東京都でも、文化施設はフェーズ1ということで、多くの博物館、美術館が営業を再開するようです。しかし、秋ごろには第2波も来るといわれ、いつまた同じように自粛要請が出るかわかりません。そこで今回は、そんなときに備えて、オンラインでも楽しめる企業系博物館を紹介します。
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社会貢献が目的の “企業博物館”
企業が企業活動に関わる内容について展示する博物館を「企業博物館」と呼びます。長い歴史をもつ企業ほど、調査研究などの目的も含めてさまざまなものを収集・蓄積しているので、単なる企業の広告目的にとどまらず、社会貢献も目的の一つとして運営されています。今回はその中からオンラインで見学できるものの中から、筆者の独断と偏見で、オススメのサイトを紹介します。
ライオンミュージアム
石鹸や洗剤などを製造している「ライオン」は、1894(明治27)年に創業しました。ここでは、創業のころからの製造販売などにも関わる資料を一覧できます。
石鹸は、油脂(油)と水酸化ナトリウム(苛性ソーダ / NaOH)の化学反応で合成するのが基本的な方法です。このような化学製品を製造する企業が、どのように公衆衛生に寄与し、社会と連携してきたかを知ることができます。
科学は社会的な必要性と結びつくことで、広く利用されるようになりますが、その一端を知ることのできるミュージアムです。
森下仁丹歴史博物館
謎の銀色の粒が印象深い「森下仁丹」は、1893(明治26)年創業です。
子どものころはとにかく苦かったという印象の「仁丹(じんたん)」は、16種類の薬を銀でくるんだ口中清涼剤です。「病気は予防すべきものである」という考えにもとづき、1905(明治38)年に発売されたそうで、「仁丹」が口中清涼剤の代名詞として使われている国があるほど、世界的な商品だそうです。
その仁丹をカプセル状に製造する技術を発展させて、現在は薬品を包むマイクロカプセルも製造しています。このように、技術をどのように発展・応用させていくかの事例を学べるミュージアムとなっています。
スズキデジタルミュージアム
自動車を製造する「スズキ」は、1909(明治42)年に創業しました。ここでは、同社が製造してきた自動車を一覧できます。
時代順に見ていくと、技術開発によってできるようになったこと、そのとき求められている自動車製品の特徴、環境基準などの社会的な必要性、オイルショックなどの突発的要因……と、それら対応する必要性が技術的な改良と発展の原動力になったことが見て取れます。
それらと合わせて、「軽自動車市場の変遷」の資料を参照することで、国内でコンパクトカーの需要がどのように変化してきたかを知ることができ、より詳しく調べるきっかけにもなります。
また、スズキは静岡県浜松市に「スズキ歴史館」という(リアル)博物館も開設しています。こちらもいずれ訪問しようと思っています。
IPSJコンピュータ博物館
この博物館は企業ではなく、コンピュータに関する研究学会「情報処理学会(IPSJ)」が運営するオンラインミュージアムです。情報処理学会は1960(昭和35)年に設立されました。
コンピュータについては、電子計算機、マイコン、パソコンと、さまざまな呼ばれ方をしてきましたが、日本でコンピュータの発展を研究面から支えてきたのが情報処理学会です。自分もコンピュータに関する仕事をしていることもあり、会員になっています。
ところで「学会」では、年に1、2回のペースで学会員が集まって研究発表会をしたり、定期的に「学会誌」を発行しています。いずれも最新の研究内容・結果を発表し、広く意見交換等をすることで研究を加速する機会となっています。ほとんどの学会では大学の研究者、学生、企業の社員問わず会員になることができるだけでなく、産業と学術の連携(産学連携)がますます重要になっています。
情報処理学会の学会誌は、専門的な内容がほとんどですが、今後コンピュータがどのように発展していくのか興味をもったら、通信販売などで購入できますので、一度読んでみるのもオススメです。
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今回は、企業博物館について紹介しました。企業博物館では社会的なニーズにもとづいて、どのように技術を適用していくか、また技術をどのように応用発展させていくかといった事例を学べます。
科学の基本法則や基礎技術などについて発見発展させることを「基礎研究」、その結果を用いて実用化・製品化することを「応用研究」と呼ぶことがありますが、両者は表裏一体の大切なものなので、ぜひ企業博物館も見学してみてください。
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