“規格外”の中高生、教育を語る。「これからの教育に必要なこと」【Edu× Tech Fes 2019 U-18レビュー】

3月16日、音楽業界からプログラマーまで、各分野で活躍する中高生たちのトップランナー6名が「教育」×「各テーマ」についてプレゼンテーションを行いました。そこで子どもたちが話した内容から、これからの教育についてヒントが見えてきました。

これからの教育についてヒントがたくさん「Edu× Tech Fes 2019 U-18」

偏差値の高い大学を出て、大手企業に就職すれば、一生安心。そんなロールモデルが通用しなくなってきた時代に、自分の子どもにどんなことを教えて行けばいいのか、悩んでいる親御さんも多いのではないでしょうか?

「Edu× Tech Fes 2019 U-18」は、これからの教育についてヒントを与えてくれるイベントでした。大手レコード会社と契約したトラックメイカー、8カ国語マルチリンガル、女性アプリ開発者、起業家、哲学者、世界に羽ばたくアプリ開発者。登壇したのはすべて、15歳から18歳の中学生・高校生です。同世代の先頭を走る6人が、教育とテクノロジーについてプレゼンテーションしました。既存の中高生像から離れた規格外の発言に驚かされました。そんな彼らの発表から、これからの教育のヒントを得ることができました。

【今回登壇した6人】(※年齢および学年は2019年3月当時)

* SASUKE(さすけ:右から3人目)……中学3年生。10歳でニューヨークにあるアポロシアターの「アマチュアナイト」で優勝。14歳のときに原宿で披露した路上パフォーマンスをきっかけにメディアに取り上げられ話題に。SNSを通じて海外、国内からオファー殺到中の15歳トラックメイカー。
* 佐藤和音(さとう・かずね:左から2人目)……19歳。8カ国語を独学習得した国産マルチリンガル。高1で高等学校卒業程度認定試験に合格、2度の奨学金を得て英国留学。公益財団法人孫正義育英財団第1期生、MENSA会員。
* 西林咲音(にしばやし・さきね:右から2人目)……高校3年生。2016年中高生のアプリ開発コンテスト「アプリ甲子園」で全国決勝大会に出場。自らの持病の経験をもとにアプリを作成。現在はAppStoreにて3本のアプリを配信中、10000DL達成。2018年、第23回国際女性ビジネス会議にて登壇。
* 山内奏人(やまうち・そうと:一番右)※……高校3年生。2012年「中高生国際Rubyプログラミングコンテスト」の15歳以下の部で最優秀賞受賞。2016年ウォルト株式会社(現ワンファイナンシャル株式会社)を15歳で創業し、クレジットカード決済アプリ「ONE PAY(ワンペイ)」をリリース。2018年、レシートを1枚10円で買い取るiOS向けアプリ「ONE」をリリース。
* 中島芭旺(なかじま・ばお:中央)……中学1年生。孫正義育英財団正財団生。10歳で出版、日本では累計17万部のベストセラー。その後、韓国、台湾、ノルウェー、ドイツ、ベトナム、中国と、世界7カ国での出版を果たす。
* 中馬慎之祐(ちゅうまん・しんのすけ:一番左)……中学3年生。2015年、小学校6年生のときにU-22プログラミング・コンテスト2015 経済産業大臣賞受賞、アプリ甲子園2015最年少優勝。アプリ甲子園2018では準優勝。孫正義育英財団の支援を機に2018年からシンガポールに留学。

※今回、山内奏人さんも登壇しましたが、本人の希望で登壇内容は掲載していません。

好きなことを突き詰めて、発信すると、自分の世界が開ける

最初に登壇したのはSASUKEさん。SASUKEさんは、このイベントの前日に、中学校を卒業したばかりのトラックメイカーです。まず、作曲ではなく、ダンスで才能が開花しました。家に音楽が溢れていて、いつも躍っている子どもだったと言います。10歳のときに行ったニューヨークで奇跡のような出来事が起こります。アポロシアターの見学に行って、休憩時間に踊っていたら、飛び入り参加で「ダンスコンテストに出ないか」と、声がかかったのです。そして、なんとコンテストで優勝してしまいます。

当然そのまま、ダンスの道を極めるかと思いきや、13歳のときに、ダンスレッスンを休止して、作曲の道に進みます。SASUKEさんは「作曲のほうがおもしろくなってきた」と言います。実は作曲を始めたのは、5歳のときに、父親の Macで勝手に遊んでいて、GarageBandという簡易な作曲アプリを見つけたことがきっかだそうです。直感的に「これを使えば、自分の好きなように曲が作れそうだと思った」と言います。

そんなSASUKEさんが世に出るきっかけとなったのが、Twitterです。原宿で路上ライブをやっていたところ、通りかかった人がスマートフォンで映像を撮影。それがTwitterで拡散され、メディア関係者を含む多くの人の目に触れました。SASUKEさんは「好きなことを突き詰めて、発信すると、自分の世界が開けて行くんです」と語ります。

最後に夢を語ってくれました。「世界の大きなステージで、自分の曲で、自分で演奏して、自分で歌って、自分でパフォーマンスをして、たくさんの人を笑顔にできたらいいなと思っています」という言葉でプレゼンを締めました。

人と同じことをやろうとしてもできないのだから、いっそ違うことをやってやろうじゃないか

二人目は佐藤和音さん。エスペラント語、イタリア語、スペイン語、中国語、韓国語、フランス語、ポーランド語。次々に違う言葉を使って、佐藤さんが挨拶をします。8カ国語を独学習得した国産マルチリンガルです。

その後、佐藤さんは子ども時代の話からはじめます。自分の興味に没頭する子どもだったと言います。文字と言語の音が好きだったそうです。3歳ぐらいのときは、父親の海外出張用の語学学習を丸々、覚えてしまいました。

そんな佐藤さんですが、「厳しい人生でした」と言います。佐藤さんはディスプラクシア(※1)という障害をもっていて、手先が不器用でした。そのせいでイジメにあいました。結果的に、3回ほど転校を経験したとのこと。学校で苦しんでいるときに、親御さんは佐藤さんを海外に連れ出します。海外に連れ出してもらって、親から「世界はこんなに広いんだ。いろいろな宗教、文化の人がいる。イジメっ子の常識は世界標準になるのだろうか」と問いかけられたのだそうです。3回目の転校で、全日制の高校から通信の高校に移りました。その際、「一般的なレールから外れてしまった」と感じ、落ち込んだそうです。

しかし、「自分は何も変わっていない。好きなことは何も変わっていない。通信制の高校でできることをやってやろうじゃないか。人と同じことをやろうとしてもできないのなら、いっそう違うことをやってやろうじゃないか」と開き直り、行動をします。高等学校卒業程度認定試験をまず取得。学校以外のコミュニティーを求めて、MENSA(※2)に入り、外国語の学習も継続して、8カ国語マルチリンガルになりました。また、MOOC(※3)を利用して、ハーバード大学、カルフォルニア大学バークレー校などの講義を30個程度修了。ZOOMOOCというMOOCを広めるコミュニティーも運営しています。

最後に同世代へのメッセージとして、「テクノロジー力で、自分の学びを選び、コーディネートする。そういう時代が到来している。自分は何者で何を目指すのか?どんな社会を作りたいのか?そういったことを考えて行くことが、僕らの今後の羅針盤になっていくのではないでしょうか」と語りかけました。

* (※1)発達性協調運動障害。協調的運動がぎこちない、あるいは全身運動や微細運動がとても不器用な障害。
* (※2)1946年にイギリスで創設された、全人口の内上位2%のIQ(知能指数)の持ち主が入れる国際グループ。
* (※3)MOOC(Massive Open Online Courses)は、インターネット上で誰もが無料で受講できる講義のこと。国内外の大学の講義をインターネットを通して受講できる。

自分の持病という短所を素敵な作品に変えることができた

西林さんは、今回登壇した中で唯一の女性です。Life is Tech ! のサマーキャンプをきっかけに、プログラミングをはじめ、2017年、2018年と「アプリ甲子園」で全国決勝大会に出場しました。そして、「アプリ甲子園」の結果が評価されて、第23回国際女性ビジネス会議に最年少のスピーカーとして、登壇しました。他の登壇者が規格外なのに対して、「休日はカフェめぐりが好き」というように普通の女子高生のように思えます。

西林さんは、「短所を長所に変える」というテーマで、自らの経験を話しました。小学5年生のときに、いきなり偏頭痛を頻繁に発症するようになったとのこと。発作の際には、何時間も動けない状態になるほどの酷いもの。そのせいで、行動も制限されて、物事をネガティブに捉えるようになったと言います。

しかし、それを変えてくれたのはプログラミングでした。西林さんはCalmというヘルスケアアプリを作成。学校の出欠の記録と体の具合を記録できるものでした。西林さんは「このアプリを多くの人に使ってもらい評価してもらうことで、自分の持病という短所を素敵な作品(アプリ)に変えることができた」と言います。

小学校5年生でなぜ本が出せたかというと、実際にまずやってみたからだと思う

中島芭旺さんは、小学校5年生のときに「見てる、知ってる、考えてる(サンマーク出版)」という本を出版し、17万部を売り上げました。その後、日本以外でも出版され、ドイツ、ノルウェー、ベトナム、韓国、台湾、中国の7カ国で出版しました。

そんな中島さんはシンプルに「やってみることの大切さ」を語りました。パソコンで作ったプレゼン資料は使わずに、観衆に語りかけるスタイルの発表です。

中島さんは本を書こうと思った理由について、「ただスマホのゲームの課金がしたかっただけなんです」と意外な理由を語ります。ただ、お金を得る方法がユニークでした。「Facebookで自分の経験が商品になるという投稿を見つけ、本を書けばいいじゃないかということに気が付いた」。

そして大胆な行動に出ます。母親のFacebookのアカウントを勝手に使って、出版社の編集者に連絡をとったのです。中島さんは「何で本が出せたかというと、まずやってみたからなんです。自分の中にやらない言い訳をし続けても、言い訳の技術がうまくなっていくだけで、何も進まない」と言います。

本当に必要なのは、環境とかツールとかに左右されない自分自身の力

中馬さんは、小学校6年生のときに、U-22プログラミング・コンテストで経済産業大臣賞、アプリ甲子園で優勝しています。中学2年生の2018年1月から、シンガポールのカナディアンインターナショナルスクールに留学。中馬さんは、留学にどのように挑んでいるかを語りました。

まず、中馬さんが、シンガポールの学校で驚いたのが、勉強の99%でMacbookを使い、Gmail、Google Driveなど、オンライン上で宿題の提出などを行っていることです。そのため、プログラミングで慣れ親しんだパソコンを使って英語を学習するなど、コンピューターにかなり助けられたと言います。

勉強の仕方の違いもおもしろかったそう。シンガポールでは、自分で調べた信用できる情報を元に、自分で考えて、自分の仮説を立てて、自分で調べて、自分で実験して、自分の意見を入れて、結論を出すレポートが、ほぼ全教科であります。中馬さんは、「ググってわかることは覚える必要がないというのが、シンガポールの学校でやっている教育」と言います。

最後に留学を成功させたスキルは、これまで日本で培ったものだと語りました。中馬さんは、「英語もテクノロージーも単なるツール。本当に必要なのは、環境とかツールとかに左右されない自分自身の力。ツールを駆使して、あなた自身の力でどう舞えるか、それが一番大切なことです」という言葉で締めました。

子どもの可能性にフタをしないことが大事

イベントを通して、子どもたちの「驚異」のプレゼンテーション力に圧倒されました。そんな中で、彼ら6人共通して感じた、これからの教育へのヒントを見つけました。

それは、親や先生など周りの大人たちが彼らの可能性にフタせず、しっかりとあと押していること。周りの人間が、本人の夢中になれることを大事にし、「これをやりたい」と言ったときに否定せず、やりたいことを加速させる手伝いをしていると、彼らを見て感じました。

単純なロールモデルが失われている中で、子どもの教育に必要なのは、常識の型に押し込めるのではなく、情熱の種火をサポートしていくことなのではないでしょうか。

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