活字離れが叫ばれている昨今、たまには誰かのぬくもりを感じる「本」を探しにおでかけしてみませんか? 今回オススメする古本屋さんは東京・国分寺にある「早春書店」。店主がオススメする一冊も紹介します。
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「本を日常に役立てる」とは
「あなたが日常生活をする中で算数がどのように役立ったかを答えなさい」
と、受験する子どもがもっていた問題集を見てクラッときました。
しかし、学校で習ったことを日常で生かす視点はとても興味深いですね。たとえば「本が日常でどのように役立っているか」を考えてみましょうか。「読んで楽しい」「見て楽しい」「触って」「買って」そして「売って」……答えは宿題ということで。
「ずっとここは古本屋さん」の店
国分寺・北口駅から徒歩5分、にぎやかな駅前から道を一本、裏路地にまわると早春書店にたどり着きます。早春書店は昨年末から準備し、2019年の3月にオープンしたばかりのお店。にもかかわらず、すっかり街に馴染んでいて、新旧の境目が見えません。ガラス張りの出入り口と、数段の階段には均一の値段が付いた古本が売られています。店内から温かい光がもれて、ずうっと前からそこにいるような錯覚がおきそうなほど。
というのも、早春書店が入るその前も、その前の前も、その前の前の前も古本屋さんが入っていた、4店舗連続で古本屋がある場所だから、と店主の下田さんが教えてくれました。早春書店がある場所は、「七七舎2号店」という、国分寺でも広く知られた古本屋さんがお店をかまえていました。現在「七七舎」もすぐそばで新装開店しています。
実は、国分寺も言わずと知れた古本の街。「古書まどそら堂」「古本雲波」、ブックカフェも「ほんやら洞」「胡桃堂喫茶店」と、歩けば歩くほど古本に触れ合う量が増えていきます。
古本屋さんをクラウドのように使って
店主の下田さんは、新刊書店に勤め、古書店「よみた屋」にて修行したのちに独立をした経緯をもっています。「やわらかいものもかたいものも、できる限りいろいろな本を置くようにしている」という店内は、小説、エッセイ、絵本、児童書、コミック、料理本、図録、写真集と、探しやすいジャンルから本の本、サブカルチャーなどディープでコアなジャンルまで幅広く取り扱いがあります。
「世の中は断捨離ブームだけど、捨てるのではなく、古本屋に売ることも、クラウドのように使ってほしい」との言葉は、長年本の仕事に携わっているからこその重みがありました。
大人も子どもも、仕掛けが好き
新刊の絵本には、スマホを利用して「音」が出る仕掛けを見かけます。そう、いくつになっても「音」が出るものに子どもは弱い。『ひかりのくに 声のえほん おやゆび姫』は、そんな子どもも楽しめるソノシート付き。
ソノシートってご存知でしょうか。「ビニル製のレコード」で、子どもの雑誌の付録によく付いていたものだそう。CDが普及する80年代ごろまでは、聞いたことのある人もいるはず。懐かしい記憶も、古本屋さんに行くからこそ。
子どもとも「なにこれ」と会話が弾みそうですし、今でもレコードプレーヤーがあれば、物語だけでなく「声」でも絵本が楽しめます。イラストも世界名作劇場的な「かわいい」アニメふうの顔立ちに見えますね。
こういう本棚が欲しかった
学生時代に好きだったものは、今も好きの根源が同じなのでしょうか。早春書店のとある本棚には雑誌『Quick Japan』のバックナンバーがズラリ。コミックも新旧入り混じった「ぜったいおもしろい」ラインナップに、ハッと気づかされます。この本棚を高校生の自分に見せてやりたい!……と心の中で叫んでしまいました。
店主自身も80年代音楽やサブカルチャーがドストライク。コーナーも別に用意してあり、近隣のお客さんからも「(店主が)好きそうだと思って」と持ち込んだ本が、ずっと下田さんが探していた一冊だったこともあるそう。
まちや人とつながるイベントも
先日もまた、地元の学生さんから「みちのカフェ」という物々交換イベントに軒先を借りたいと申し出を受けたそう。朝夕こそバス停のちかくで人通りもあれど、日中はどうだろうと眺めていると、思いのほか立ち止まる人がいて、楽しそうに話すお客さんが多かったと言います。「国分寺は、おもしろくてユニークな人が多い」と店主が感じているとおりなのでしょう。
今後も先述の「みちのカフェ」や店内でのトークイベント、裏路地を生かした「たまり場」づくりの構想を抱いているとのこと。期待が膨らみます。
「あのヘンテコな絵本」
最後に、店主の下田さんからオススメの1冊を選んでいただきました。
佐々木マキさんの書く『ムッシュ・ムニエルをごしょうかいします』。主人公はヤギ。ただのヤギではありません。なんとムッシュ・ムニエルは魔術師。街角では、歌手の悲しい歌声を、瓶に詰めてぱあっと花火にして打ち上げてしまう。まさしく、予測不能の物語が展開していきます。
カートゥンのようにコミカルなタッチとユーモラスな登場人物たちがとても魅力的。お話にスジがないのは、月刊誌「こどものとも」に連載されていたことも関係あるのかもしれません。収録された3つのお話も、どこから読んでも楽しめます。
下田さん自身も小さいころ、ご両親に読み聞かせをしてもらった思い出があり、本という文化に触れる原体験となった1冊だそうです。「あのヘンテコな絵本はなんだったんだろう」と自由にものを考える原動力になれば、と下田さんは言っていました。
基本情報
- Twitter:@so_shun_shoten
- 住所:〒185-0012 東京都国分寺市本町2-22-5
- ウェブサイト:https://www.so-shun-shoten.com/
- 営業時間:12:00 – 20:00
- 電話:042-407-8945
- 定休日:月曜日
- MAIL:info@so-shun-shoten.com
店長オススメの一冊
『ムッシュ・ムニエルをごしょうかいします』
- 著者 佐々木マキ
- 出版社 福音館書店
- 刊行年 1989年
「ムッシュ・ムニエルをごしょうかいします」(1978年11月1日こどものとも発行)
「ムッシュ・ムニエルのサーカス」(1981年10月1日こどものとも発行)
「ムッシュ・ムニエルとおつきさま」(1986年10月1日こどものとも発行)
※現在は絵本館から新刊を購入できます。
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