34歳の女性首相誕生の裏には「性別や宗教などで差別しない」という義務教育のミッションがあった【フィンランド教育はなぜ子どもを幸せにするのか】

34歳の現役最年少女性首相が誕生したことで話題になっているフィンランド。日本ではなかなか考えられないことですが、なぜこのようなことが可能だったのでしょうか。その根底には、フィンランドの「義務教育のミッション」があるようです。

  • フィンランドの子どもや教育に対する考え方は日本と大きく異なる
  • 義務教育のミッションは「教育的課題」「社会的課題」「将来に向けた文化的課題」
  • 教育における国のゴールは「社会の一員としての個人の人格を育てること」「個人が生きていくためのスキルと能力を身につけるサポートをすること」「個人が生涯学び続けていくサポートをすること」

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フィンランドの教育がなにを基盤としていて、なにを目指しているのか

過去の話にはなりますが、2003にはPISA(OECDが実施する国際的な学力テスト)の“読解力”“科学リテラシー”においてトップランクを獲得し、教育の分野でも注目されました。

その後徐々にランキングは落としているものの、いまだにフィンランドの教育や文化に興味をもつ日本人が多いのは、子どもや教育に対する考え方が日本とは大きく異なるからでしょう。そんなフィンランドから学ぶことで、日本に生きる私たちが豊かな人生を送るための方向性を見出せるのではないでしょうか。

フィンランドの新首相サンナ・マリーン

© Laura Kotila / Finnish Government

www.flickr.com

これまで複数回に渡って「フィンランドの教育がなにを基盤としていて、なにを目指しているのか」といったことをより深くお伝えするためにフィンランド版の“学習指導要綱”である“NATIONAL CORE CURRICULUM FOR BASIC EDUCATION 2014”(以下、「FNBE」)の内容を共有してきました。今回はその3回目。可能な限り元の意味をありのままに表現するため(FNBEはフィンランド語で書かれた後、英語版を発行しています)、部分的に英文を挿入しています。

義務教育のミッションは「教育的課題」「社会的課題」「将来に向けた文化的課題」

フィンランドでは義務教育のミッションは、「教育的課題」「社会的課題」そして「将来に向けた文化的課題」の3つの視点から考えられています。

“The mission of basic education may be examined from the perspective of its educational task, social task, cultural task or future-related task.”

教育的課題(educational task)……学校が子どもの“学び”と“心身の健康”を家庭と協力してサポート

「教育的課題」とは、学校が子どもの“学び”と“心身の健康”を、家庭と協力してサポートすること。個々の子どもがもつ能力や可能性を発揮できるよう、すべての子どもが平等に学べる環境を提供することが前提となっています。有名な話ですが、フィンランドの義務教育では教科書だけでなく文房具や給食が無料。どんな家庭の子どもでも学校という社会の中で学べることが大切にされています。

そういった“平等”を体感できる義務教育(小・中学校)で過ごすことにより、子どもたちは自分のことはもちろん、すべての人が平等に扱われるべきであるということを学び、民主主義の一員となっていくことを目指しています。

“Educationpromotes participation, a sustainable way of living and growth as a member of a democratic society. Basic education educates the pupils to know, respect and defend human rights.”

社会的課題(social task)……公平、平等、公正な社会をつくる

「社会的課題」として大切にされているのは、教育によって人と人との信頼関係を築き、公平、平等、公正な社会をつくること。個々人が人として尊重されることで、フィンランドの教育現場では、“性別”“経済状況”“宗教”“民族”などによって差別されたり公平ではない扱いをすることに対して厳しく対応します。私がフィンランドの小学校を見学した際も、普段は優しい雰囲気の先生(寝そべって計算問題を解いても注意しない)が、子どものいじめを感じさせる発言に対しては表情を変えて注意している様子が見られました。

またFNBEでは、とくに“性別”について強調しており、性別によるロールモデルによって将来を選ぶのではなく、自らの能力や適性、意思によって将来を切り拓くことを目指しています。

“Each pupil is supported in recognizing their personal potential and selecting learning paths without role models determined by gender.”

将来に向けた文化的課題(cultural task or future-related task)……自身の時代や環境の文化を受け入れ文化的アイデンティティを築く

「将来に向けた文化的課題」としては、子どもたち自身が彼らの時代や環境の文化を受け入れた上で自身の文化的アイデンティティを築くこと、とされています。

テクノロジーの発展スピードが加速している昨今、学校の外で子どもたちが触れるものからの影響は避けられません。また、ヨーロッパに位置するフィンランドでは日本と比較すると海外の文化に触れる機会も必然的に多くなります。

“Changes in the world outside the school unavoidably affect the pupils’ development and well-being as well as the operation of the school.”

子どもたちが触れるものの中には、個々の子どもにとって刺激が強かったり、違和感があったり、“教育的に”よくないとされるものも含まれます。そういったものを除外するのではなく、まずはフラットに触れることのできる耐性を身につけ、批判的視点で自らの将来に必要かどうかをチョイスできる能力を磨くことが重要視されています。

小学校のクラスで文化的テーマを扱うときに“よい/よくない”“好き/嫌い”でジャッジするのではなく、先生は子どもたちに“どの部分がよくないかな?どうしたら、ポジティブな文化として捉えられるかな?よくないのであれば、どんな付き合い方をすればいいかな?”と子どもたちをファシリテートすることが求められるのです。

教育における、国のゴールとは?

では、フィンランドという一国家にとって教育はなんのためにあると定義されているのでしょうか。それは「社会の一員としての個人の人格を育てること」「個人が生きていくためのスキルと能力を身につけるサポートをすること」「個人が生涯学び続けていくサポートをすること」。“義務教育のミッション”と意味が重複するキーワードが多いのは、それだけフィンランドで大切にされている価値観であると言えます。それぞれのゴールについて、詳細を見ていきましょう。

社会の一員としての個人の人格を育てること(Growth as a human being and membership in society)

フィンランドの文化的背景に大きく影響を与えた「西洋のヒューマニズム」、キリスト教を含む「文化やイデオロギー、哲学、宗教に対する理解」を深めることによって、他の文化や宗教、イデオロギーを尊重できる人、さらに責任をもつこと、自分の心身をいい状態に保つこと、常に学び続け周囲に配慮した言動や習慣をもつ人も“学び”によって育てられるとしています。

“General knowledge and ability is also seen to include cooperation and responsibility, promotion of health and well-being, learning good habits and manners, and promotion of sustainable development.”

個人が生きていくためのスキルと能力を身につけるサポートをすること(Requisite knowledge and skills)

この部分が、フィンランドの教育を特徴づける“教育の目的”になるのではないでしょうか。すでにある知識を“既存の”分野ごと(国語や算数など)に切断して子どもに教えるのではなく、子どものスキルや能力を主語としてそれを発展させるためには、分野横断型の教育が大切だとされています。

個人が生涯学び続けていくサポートをすること(Promotion of knowledge and ability, equality and lifelong learning)

これもよく知られている話ですが、北欧では生涯の学びが日本より推奨されています。フィンランドでも、すべての教育が“生涯教育”の一部であると捉えられています。もちろん、すべての人への生涯教育が実現するには社会システムなどのハード面の整備も必須ですが、学び続けたいと思う個人のモチベーションを子どものうちから育むことも前提として必要です。

そのため、一方的ではなくインタラクティブな教育をすることや学校外での学びの機会を活用することを重視。さらには、“スキル重視で分野横断型の学び”という概念が、個々人が学校を卒業した後も学びの必然性をもつために有効であると注目されています。

この“スキル重視で分野横断型の学び”をフィンランドのカリキュラムではどう定義づけているのかを、今後の記事で詳しく共有します。

生きていくスキルを身につけた個人が自立し、ともにいい社会をつくりながらそれぞれの人生を豊かにする、それがフィンランドの教育の目的

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