プレゼン教育が子どもたちの未来を変える。ICT教育で身につけた子どもたちの“武器”【古河市上大野小学校インタビュー】

2020年からの「プログラミング教育」必修化によって、小学校・中学校の教育が変化の兆しを見せています。そんななか、タブレット端末を用いた「ICT教育」を活用する「プレゼンテーション」に特化した授業が行われていました。なぜ「プレゼン」を取り入れたのか、その理由を先生と子どもたちにインタビューしました。

「プレゼンテーション」に特化した授業

茨城県古河市立上大野小学校では、薄井直之(うすい・なおゆき)先生を旗頭に全校を挙げて、「ICT教育」として電子黒板やタブレット端末を用いた「プレゼンテーション」に特化した取り組みが行われています。

2019年3月、上大野小学校の卒業式では、小学校6年生が保護者や先生、全校児童の前で「将来の夢」「感謝」「成長」についてプレゼンテーションしたと聞いて、現場の様子をインタビューしてきました。2回に渡って、上大野小学校の取り組みをお伝えいたします。

卒業式で「将来の夢」をプレゼン

今回取材したのは、春から中学1年生になったばかりの箭内稜恩(やない・りおん)さん、倉持日菜(くらもち・ひな)さん、諏訪妃菜(すわ・ひな)さん、中村優奈(なかむら・ゆな)さんの4名。この4名を含む総勢20名の卒業生が、3月の卒業式に「将来の夢」をテーマに1分間のプレゼンテーションをして、さらに退場シーンにあわせて、1人11秒の動画を作成しました。

大役をこなした卒業生たちでしたが、薄井先生から、この4名の初期のプレゼンレベルは「お世辞にもうまいとは言えないレベル」だったという意外な言葉が。卒業生たちがどのようにプレゼンテーションのスキルを武器にしていったかをたずねます。

「最初のころは、しゃべろうとして固まった」

薄井直之先生

――上大野小学校の「ICT教育」からのプレゼンテーションへの取り組みについて教えてください。

薄井直之先生(以下、薄井先生) 古河市はICT教育にもいち早く取り組み、今の卒業生たちが小学3年生だった2015年度から、全校児童に1人1台のタブレット(iPad)が配付されました。実際にタブレットを使っての「朝のスピーチ」がはじまったのが5年生から、本格的にはじめたのが6年生からです。「朝の会」で2人ずつ、1分間スピーチをするようになりました。1人10回以上は発表していますね。

――ICTの活用に、プログラミングではなくプレゼンテーション教育に集中した理由はありますか?

薄井先生 ICT教育に入る前から、上手に表現できない子たちを見ていたので、いつも子どもたちからひと言ほしいなって。僕の好きな大喜利のように、とっさになにか言える子どもに育ったらすごくおもしろいだろうなと思いついたのがきっかけです。

――最初は「下手」だったとのことですが、そのころはドキドキしましたか?

箭内稜恩さん(以下、箭内さん) 自分はできないって思って、しゃべれませんでした。でも、やっていくうちに慣れてきて発表ができるようになっていきました。

倉持日菜さん(以下、倉持さん) 最初は人前に出るのが恥ずかしいので発表はイヤでした。今はもう人前に出ても平気だし、知らない人とも気軽に話せるようになりました。

諏訪妃菜さん(以下、諏訪さん) 5年のときは恥ずかしくて全然発表とかしませんでした。6年生になってから自分からがんばってやろうと思い立って、自分から人前に出るスピーチの司会や、「プレゼンテーション大会」の終わりの言葉にチャレンジしました。

中村優奈さん(以下、中村さん) 最初は全然しゃべれなかったので、人前で固まっていました。だから授業でもできるときはがんばって発表することを心がけていました。

薄井先生 今はみんなスラスラ話せるようになって、この子はこの話し方だなっていう個性が出てきましたね。

――スピーチの司会も子どもたちで?

薄井先生 ええ、話し合いや意見を求める「仲介役」も育ってほしかったんです。スピーチの最後には、褒めるところと改善したほうがよいところを探してアドバイスをする。発表者は、アドバイスを受けたところを次は言われないようにする。そうすると一人一人が、がんばる姿が見えてきて、お互いに認め合って意見も発表もよくなっていったんです。

――スピーチのテーマや、プレゼン資料はどのように準備をしましたか?

箭内さん 薄井先生が決めたテーマがあったり、みんなで書いてクジで決めたり、そういう決め方をしました。

倉持さん 雨の日や朝、時間があるときに準備をしていました。

「スピーチ」解説動画を作り、グランプリも受賞

中村優奈さん(左)と諏訪妃菜さん

――「プレゼンテーション大会」とはどういうものですか?

薄井先生 年に5~6回、校内をあげて開催されます。クラスの代表が発表し、先生6人が審査員につきます。

箭内さん 僕は5年生のときに「宿泊合宿」について発表して、校内2位になりました。

薄井先生 そのときに優勝した児童は、1学年下の当時4年生でしたが、思い出を語るというテーマで「お弁当の話」から「親への感謝」という構成、テーマのとらえ方が上手でしたね。現在、学校内では課外活動として、埼玉県の羽生市のプレゼンテーションコンクールと、パナソニック教育財団主催のプレゼンテーションコンテストには参加しています。2018年度は、6年生(卒業生)たちが「D-project」に参加して「いいスピーチについての解説」について動画や資料を組み合わせて作成し、グランプリを獲得しました。

発表の中に「笑い」を入れて、と言われた

箭内稜恩さん(左)と倉持日菜さん

―― すごいですね。その集大成と言えるのが、一人一人が「卒業式」に発表したスピーチだと思いますが、当日はどうでしたか。

箭内さん 薄井先生からのアドバイスもあって、在校生が飽きないよう、でも内容が薄くならないよう、1分でわかりやすい内容を意識して資料を作りました。緊張せずに話せたこと、意外にみんなが笑ってくれたことが心に残りました。在校生にも親にも先生方にも感謝は伝えられたかなって、満足しています。

薄井先生 卒業式でのスピーチ発表は3年目ですが、プレゼンは「将来の夢、感謝、成長」というテーマで、細かい中身は当日まで僕も、おそらく保護者の皆さんも知りません。クラスで話し合って解決していました。卒業式の途中で泣いている保護者もいましたがスピーチになると上手に話す子や、マイクを置いて地声で話す子、「笑い」を入れる子もいて、僕も最後には笑いをこらえきれず、爆笑してしまいました。

倉持さん 発表しているときは緊張していましたが去年卒業生した兄のときより、今回のほうが盛り上がったな、と(笑)。 発表の中に「笑い」を入れるように言われ、薄井先生にもらった「どんと来い!」、という一発ギャグを前と後に入れました。私のように5年生のときに目立たなかった人も、6年生になって「持ちネタ」ができてからは、クラスを盛り上げる人も増えました。

中村さん 妃菜ちゃんは先生に言われて「チョリーッス」があったね。

諏訪さん (笑)。最初のころは緊張してとても早口で、落ち着いてって言われました。プレゼン練習のときは、イラストだけでなく写真もあったほうがいいよってアドバイスをもらいました。

中村さん 親から「ちゃんと発表できるの」って何回も聞かれました。自信はそんなに無かったけど「たぶんできるよ」って。当日はちょっと早口になっちゃたけど「よく発表できてた」って言ってもらえました。

自分を表現するツールが増えた

――卒業後、これからもスピーチを続けようというのはありますか?

倉持さん 最後の算数の授業では、問題を出し、解説を入れて15分間をグループで担当しました。まだまだ算数は苦手だけど「しゃべり」はできるようになったので、中学校でそのタイミングがあるのかわからないけど、もしあれば経験をいかして発表してみたいです。

薄井先生 自分を表現するツールがひとつ増えるって感じですよね。言葉だけじゃなくて、文章を書くだけじゃなくてね。「話す力」と「見せる力」がついてきたかな。

***

後編では薄井先生からなぜ「プレゼンテーション」に特化した取り組みや発表をしてきたのか、2020年新たな教科の新設としてのはじまる「プログラミング」必修化への考え方についても掘り下げていきます。

■ 古河市立上大野小学校

所在地 〒306-0201 茨城県古河市上大野1425

ホームページ
http://kamiono.koga.ed.jp/

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