子どもを取り巻く「環境」の大切さーー「コンピューター歴史博物館」「テック・イノベーション博物館」【シリコンバレーのSTEM教育】

2018年3月までアメリカのシリコンバレーの小学校に子どもを通わせていた経験をもとに、シリコンバレーにおけるSTEM教育の実際についてレポートします。最終回である第4回は、シリコンバレーの博物館について紹介します。

STEM教育は教室や家庭だけで完結するものではありません。アメリカの子どもたちはフィールドトリップ(課外授業)や、週末の親子のレジャーとして、博物館を頻繁に訪れます。

シリコンバレーに数ある博物館のうち、子ども向けの体験型STEM展示に力を入れている2つの博物館についてレポートします。

言わずと知れたコンピューターの原点を探れる場所。コンピューター歴史博物館(マウンテンビュー)

コンピューター歴史博物館(写真提供:一瀬卓也)

「みんなUSBケーブルって知ってるかな?」「知ってるー!」

「じゃあ、60年前のケーブルって見たことある?」「わぁ!」

IBMをリタイアした初老の男性が、太さ5cmもあるシリアルケーブルを子どもたちに見せています。元IBM社員のボランティアたちが2013年にリストアしたIBM 1401のデモ展示の光景です。

毎週水曜日と土曜日にボランティアが集まり実際のメインフレーム機を稼働させており、子どもたちの名前を打ち込んだパンチカードを読みとり、プリンターで印刷するというデモをしています。

コンピューター歴史博物館は1996年設立。2003年に現在の場所に移転しました。

「The First 2000 years of computing」と題した常設展示は、そろばんからはじまり、スーパーコンピューター「Cray-1」、「Apple I」などのパーソナルコンピューター、「Pong」や「パックマン」などのビデオゲームなど、親子で楽しめる展示がたくさん。その中でも、「IBM 1401」や「DEC PDP-1」など、初期のコンピューターの体験展示が人気でした。

また、従来はハードウェアの展示がほとんどでしたが、AdobeやGoogleなどの協賛で新設された「Make Software: Change the World!」では、ブロックプログラミングでのゲームづくりやMRI(磁気共鳴画像)を使った診断体験など、ソフトウェア体験もできるようになりました。

バイオテクノロジーやヘルスケア、サイバーセキュリティを体感できる「テック・イノベーション博物館(サンノゼ)」

サンノゼ・ダウンタウン中心部にあるThe Tech(テック・イノベーション博物館)は、今年20周年。科学・技術・イノベーションをテーマとした常設展示には、「バイオテクノロジー」「ヘルスケア」「サイバーセキュリティ」など、スポンサー企業のバックアップのもと、バラエティに富んだ体験展示が設けられています。

The Tech(テック・イノベーション博物館)

私の子どものお気に入りは、次世代ファイアウォールを開発するPalo Alto Networksがスポンサーの「Cyber Detectives」。シリンダー錠の動作原理とその開け方(破り方?)、暗号化技術とその解読方法、弱いパスワードがいかに危険かなど、サイバーセキュリティについて、試行錯誤しながら体験することができます。

Palo Alto NetworksのYouTube

youtu.be

またSTEMに特化した取り組みとしては、「The Tech Studio」が毎日開設されており、「カタパルトをつくろう」などといったさまざまなハンズオン型ワークショップに参加することも可能です。

企業との距離が近いシリコンバレーの博物館

やや話はSTEMから離れますが、これら博物館のアトラクションは、企業の寄付によって運営されています。Google、Apple、FacebookなどといったIT大手に限らず、スタートアップやBank of Americaなどの非IT企業もスポンサーについているのが特徴です。

また一定の寄付をすることで、レセプションパーティやデモンストレーション、ワークショップなどの企業イベントの会場として、これらの博物館を貸し切ることもできます。

スタートアップ企業のレセプション・パーティでの光景

2014年には日系スタートアップのMiseluとAgIC(現エレファンテック)、ベネッセのシリコンバレーオフィスが、The Techでのイベント展示やワークショップを行っていました。

イノベーションの最先端を走る大企業やスタートアップと、イノベーションやコンピューターの博物館とのコラボレーション。シリコンバレーの子どもたちには、このようなモノに触れる機会が常にあるということが、とてもうらやましく思えるでしょう。

子どもを取り巻く「環境」の大切さ

いままで4回に渡って、シリコンバレーのSTEM事情について見てきました。

STEM教育というとどうしても「STEMとは」「教育とは」という概念が先行してしまい、プログラミング教育そのものの是非、教育現場の運用をどうするかといった議論に終始してしまいがちです。他方シリコンバレーでは、STEMに親しむための環境づくり、ITリテラシー教育、発表の場づくり(「Show and Tell」)、そして最先端企業とのコラボレーションなど、教育現場と企業が一体となって場所や環境をつくることに注力しているように思います。

これからは日本でもSTEM教育の領域でさまざまな取り組みがはじまっていくと思いますが、STEM教育は教育のプロやIT専門家だけのものと考えていないでしょうか。私自身も一人の子どもの親として、またシリコンバレーにいたIT業界の人間として、子どもたちによい「環境」とはなにか、イノベーションを育む「場所」を大人たちがどうつくるべきなのかを常に考え、身近なところからできることに取り組んでいきたいと思っています。

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