アメリカ合衆国の西海岸エリアに来たら必ず行きたいのが、シリコン・バレーにある「コンピューター歴史博物館(Computer History Museum)」。この博物館はコンピューターを計算機の発祥から辿れるという、その名に相応しい展示を備えた、世界最大のコンピューター専門博物館です。
【日本と世界のサイエンスミュージアム】は毎月3日更新!これまでの記事はこちら
その起源は1979(昭和54)年に東海岸のマサチューセッツ州ボストンに開設された「コンピューター博物館(The Computer Museum)」にさかのぼり、1996(平成8)年に、前回紹介した西海岸のモフェットフィールドに、分館として設立された後、2000(平成12)年にあらためて統合されました。
コンピューター=計算する人(計算手)
英語の「コンピューター(Computer)」はもともと「計算をする(Compute)」という単語に「計算する人(計算手)」という意味をもたせる「-er」が付いたものです。現在のいわゆるデジタル計算機(電子計算機)を指す意味で用いられる前は、実際に計算手のことをコンピューターと呼んでおり、1960年代にNASAが実施した有人宇宙飛行計画「マーキュリー計画」に携わった計算手については映画にもなっています(邦題「ドリーム」/原題「Hidden Figures」)。
それまでは、1600年代(江戸時代初期)に発明された「計算尺」という定規形状の(アナログ式)計算器が使われており、入ってすぐの所に置かれています。計算尺は、安価な電卓が普及する1980(昭和55)年ごろまでは、技術計算などで広く用いられていました。
バベッジの階差機関(解析機関)
ここからしばらく機械(歯車)式計算機が続きますが、その中でとくにユニークなもののひとつが「バベッジの階差機関(解析機関)」または「バベッジ計算機」などと呼ばれる歯車を用いた計算機のミニチュアモデル。科学技術計算などでよく用いられる対数(log)や三角関数(sin, cos, tan)を計算した表を作成するためのもので、もともとのアイデアはドイツ人であるヨハン・ヘルフリッヒ・フォン・ミュラーが、1786(天明6)年に本の中で示したものが最初ですが、このときは制作資金が集められず頓挫してしまいました。
その後、1822(文政5)年にチャールズ・バベッジにより再発明(再発見)され制作が進められましたが、当時の金属加工の工作精度や資金の限界などの理由により、本来計画したものを作り切ることなく同様に頓挫してしまいました。
バベッジの設計による計算機が実現したのは、バベッジ生誕200周年記念事業としてイギリス・ロンドンの「サイエンスミュージアム(Science Museum)」が1991(平成3)年に完成させたものが最初です。ロンドンのものとは別にもう一台制作されており、コンピューター歴史博物館に2013(平成25)年3月に訪問した際には展示されていましたが、2019(平成31)年3月時点では見ることはできませんでした。
最初期の電子計算機「ENIAC」
たくさんの機械式計算機をくぐり抜けた先に、やっと最初期の電子計算機(コンピューター)の一つである「ENIAC」(の極一部)が現われます。ENIACは1946(昭和21)年に完成し、開発費は総額49万ドルとのことで、現在の価値に換算すると18億円にもおよびます。このような膨大な資金を調達できたのは、大砲の弾道計算という軍事目的で軍事費を用いて開発されたからに他なりません。また、原子爆弾の開発を目的とした「マンハッタン計画」にも利用されています。初期のインターネットの研究開発も軍事費を投入されたことで加速したということもあり、科学技術の発展と戦争は切っても切り離せない関係にあることも事実です。
ところで、この博物館は2003(平成15)年に現在の場所に移転しました。現在の建物は、3次元コンピューターグラフィックス(3D-CG)の専門メーカーであったSGI(シリコングラフィックス)社の本社が入っていました。SGIは1982年にジム・クラークにより設立され1986(昭和61)年にはNASDAQ(アメリカのベンチャー株式市場)に上場するなど、3D-CGの発展を牽引しましたが、2006(平成18)年には実質的に経営破綻しており、今はブランド名だけが受け継がれています。ここには、もちろんSGI社のコンピューターも展示されています。
ちなみにジム・クラークがマーク・アンドリーセンと1993(平成5)年に創業した「モザイクコミュニケーションズ(Mosaic Communications Corporation)」(=ネットスケープコミュニケーションズ(Netscape Communications Corporation))は、いまや毎日当たり前に使っている「World Wide Web / Webブラウザー」の仕組みを普及させた企業です。コンピューター、インターネットの発展の歴史はこのような密な連続性が多いのが特徴です。
世界初のシューティングゲーム「Spacewar!」
世界最初のシューティングゲームは、1962(昭和37)年にマサチューセッツ工科大学での研究用に設置されたDEC(デジタル・イクイップメント・コーポレーション)社のコンピューター「PDP-1」で学生が開発した「Spacewar!(スペースウォー)」とされています。ここでは、60年近く前に作られたPDP-1を修復し(レストア)し、その当時のままにゲームをプレイするデモンストレーションを定期的に開催しています。
写真に写る、赤い服を着た2人は博物館の学芸員ではなく、左側から開発の中心人物であり操作機能を担当したスティーブ・ラッセルと、星空の表示を開発したピーター・サムソン本人であり、開発者本人が当時のことを話すという非常に刺激的な場です。
歴史を振り返り、次の時代をつくる礎に
この博物館はコンピューターの歴史を網羅していることもあり、とにかく展示品が多く、ゆっくり見ればいくらでも時間を過ごせます。コンピューターが当たり前になった今の時代だからこそ、発展の歴史を振り返り、次の時代をつくる礎としてください。
基本情報
- 名称: コンピューター歴史博物館 (Computer History Museum)
- 住所: アメリカ合衆国カリフォルニア州マウンテンビュー Nショアライン大通り (1401 N Shoreline Blvd Mountain View, CA 94043, USA)
- 公式サイト:http://www.computerhistory.org
- 開館時間: 火曜-木曜・土日: 10:00-17:00 / 金曜 10:00-21:00
- 見学目安時間: 3時間
- 入館料: 大人$17.50(約1860円) 、小人 $13.50(約1430円)
- オーディオガイド: なし
この記事が気に入ったら「いいね!」をクリック!バレッド(VALED PRESS)の最新情報をお届けします!