アフターコロナで「正解」を選ぶことができるのか こんな事態だからこそ本から気づきを探そう【東京明大前「七月堂古書部」】

今回オススメする古本屋さんは東京・明大前にある「七月堂古書部」。詩歌をメインに扱う印刷・出版の老舗「七月堂」に併設する“古書部”。オープンから4年、今ではオールジャンルの本が楽しめる街の古本屋さんに。そんな古書部・部長の後藤さんがオススメする一冊は親子で読みたい詩の絵本『最初の質問』です。

これまでの【子どものための古書探し】はこちら

「正解」を選ぶことができるのか

新型コロナウイルスの影響は世界中へと拡大、先行きが見えない不安な日々が続いています。世界保健機関(WHO)は「みんな離れてゲームをしよう #PlayApartTogether」と新しい提言をまとめました。普段なら、新しいおもしろさにハマっていくのもアリなのでしょうが……。4月1日には香川県でゲーム依存に警鐘を鳴らす条例も施行。一部、小中学校の授業開始が延期、子どもたちの学力低下も心配されています。

都内の古本屋さんからも自粛営業に悩みの声が聞こえてきました。私たちは迷いながら「正解」を選べるのでしょうか? 今回は、こんな事態だからこそ気づいたことがあると明かす「七月堂古書部」を紹介します。

「七月堂」出版部の事務所と併設、刊行物がカウンター上にズラリ

詩歌の出版社が、古書部を併設オープン

明大前の中央口、駅前のスーパーや生活圏から小道へ約5分。古本センサーをビビッと働かせると、均一棚、のぼり旗に吸い寄せられるように「七月堂古書部」に辿り着きます。

赤い看板には「詩集・文学・絵本・リトルプレス・マンガ・DVD・中古楽器 etc…」とある

そもそも「七月堂」は1973年創業の老舗。印刷・出版を生業にしながらも、とあるきっかけで2016年4月に古書部を立ち上げました。「営業で沖縄に行ったメンバーが『市場の古本屋ウララ』を見て、話を持ち帰って」と話すのは古書部・部長の後藤聖子さん。

看板犬のエルさん(ヨークシャテリアの女の子)と

店内は、多すぎるほど見どころがたくさん。刊行した詩的な実用書『のほほんと暮らす』に合わせ、お客さんの「のほほん」を集めた企画コーナーをはじめ、選者による特設コーナーや、古楽器やお菓子販売なども。“古書部“に集う人々が幾層にも重なり合う様子は、まるでていねいに大きなパッチワークを仕立てている印象を受けました。

自分でプレッシャーをかけて

出版もありながら、古書部・雑貨部と前代未聞の取り組みに、戸惑いはなかったのでしょうか。

「詩歌の本は、どこで買ったらよいかわからないと言われるジャンルなので、盛り上げたい気持ちがありました。まずは本をつくりに来てくださるお客さま同士の蔵書を循環し合えるような場づくりからと思ったのがスタートだったんです」

児童書、新刊書も。壁面には絵画ギャラリー

じつは後藤さんは「七月堂」のひとり娘。甘えてはいけないと、自分へプレッシャーもかけていました。ただノウハウのない「買い取り」を一年経たずしてはじめることになったのは想定外だったとのこと。

取り扱いはオールジャンル。店内のレイアウトも、本屋をたくさん巡った工夫が生かされている

「近隣の方からの持ち込みも多くて。まったくわからなかったので、買い取りってどのようにするんですか、と下北沢のクラリスブックスさんや、三鷹の水中書店さんといった古本屋さんに何度も足を運んで話を聞きました。振り返ると途方もないことでしたが。本は好きでしたし、楽しかったです。開始から4年、今のところ投げ出したいと思ったことは一度もありません」

コロナ自粛で変化、気が付いたこと

あえて詩歌の専門店にしなかった理由は「うっかり狙いです(笑)」と後藤さん。詩と出会う場所として「境界線を淡くしたかったから」と、古本もオールジャンルの本を取り扱っています。今では普段はなじみのないお客さんへ詩歌を薦める、きっかけづくりをすることも少なくないそう。

書き手の数だけ個性があると言われる詩の世界。わざわざ詩歌の本を求め、遠方の方が来店することも多かった「七月堂古書部」ですが、今春に直撃した、一連のコロナ騒動。

売り上げも土日は減ったと明かしてくれました。そのぶん、平日が上がったそう。「SNSで遠方とも交流ができているけれども、基本は“町の古本屋”であると再認識しました。今は、何とかこの場は守らないといけないと思っています」

最後まで読まない本もたくさんある

後藤さんが、もうひとつ最近気づいたことが最後まで読まなくてもいい読書スタイル。「本ナシはでは考えられない環境で育った」わけですが、仕事で読まないといけない本もあるなか、同時に5~6冊を併読。読み進めていくうちに自分の中で気づきがあれば十分だと言います。

「最近は料理本も並べています。元気がないと、本を探したり、読んだりが難しいと思って」

私も最後まで読み切ることにとらわれて、読書離れしてしまう日が続くことも。本にハードルの高さを感じてしまうより、ページをめくることも、本を買うことそのものも読書体験なのではないかしら、と後藤さんの会話からはっと気づかされました。

心にぐさっとくる言葉

最後に、七月堂古書部、部長の後藤聖子さんからオススメの本を選んでいただきました。『最初の質問』は詩人・長田弘の言葉に、美しいいせひでこさんの水彩画がついた何度も読み返したくなる絵本です。

「心にぐっとくる一冊なんです」後藤さんがおっしゃるように、長田弘さんの詩は、問いかけられると、答えに困ってしまうような質問ばかりが並びます。

――今日、あなたは空を見上げましたか。
――空は遠かったですか、近かったですか。

さらに、詩は続いていきます。

――時代は言葉をないがしろにしている。
――あなたは言葉を信じていますか。

家にいる時間は多いこの時期、親子で読み合いをして、人生で大切にしたいことを見つけてみるのはいかがでしょうか?

基本情報

  • 『七月堂古書部』
  • 住所:〒156-0043 東京都世田谷区松原2丁目26-6
  • 営業時間:木~月 11:00~19:00
  • 定休日:火・水・不定休

※時間変更の可能性あり。自粛要請を受け対応。来店時にはHP や SNS を要チェックしてください。

店長オススメの一冊

  • 『最初の質問』
    • 詩:長田 弘
    • 絵:いせひでこ
    • 出版社:講談社
    • 刊行年:2013年07月25日

下北沢南口のショップ「三叉灯」でも「七月堂古書部」が出張中。

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