今回ご紹介するのはストックホルムにあるヒストリスカ(スウェーデン国立歴史博物館)です。これまでも何度か取り上げてきたように、欧州には子どもも大人も一緒に楽しめるミュージアムが多いと感じています。そこで、STEM教育から少し離れて、自然科学や歴史教育についても触れてみようと思います。
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興味をもつきっかけをちりばめた展示
ヒストリスカは1866年のオープン以来、国により運営されているミュージアムです。入館料は無料。市民に広く開放されています。
ヒストリスカで特徴的なのは、企画展ごとの展示レイアウトです。企画展ごとにさまざまな工夫を凝らしてデザインされており、来訪者が訪問をきっかけに歴史のことを深く理解したり、親子が一緒に探求を楽しめるようサポートしています。たとえば企画展のひとつ、「History of Sweden(スウェーデンの歴史)」を見てみましょう。
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床面に書かれた年号
ここでは床面に道しるべのように、11世紀にスウェーデン王となったオロフ・スコットノングの時代から現在に至るまでの年号が一年ごとにが刻まれています。展示内容は床面の年号と関連づけられているので、気になる展示物を見つけたときに足元を見ると、いつの時代のものかすぐにわかります。
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キリスト教化が進んだ1200年代
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グスタフ3世による絶対君主制が復活した1700年代
また展示室の雰囲気は年代ごとにまったく異なり、時代背景が反映されたデザインやレイアウトになっています。スウェーデンの歴史を詳しく知らないまでも、それぞれの展示室を歩くだけで、何がその時代を動かしていたかを感じ取れます。
視覚的に飛び込む情報が時代の移り変わりを抽象的に印象づけるので、出来事の前後関係が記憶に残りやすいと感じました。まるでタイムトラベルをしているみたいです。
歴史ではなくライフストーリーという視点
ヒストリスカの展示では、歴史的な資産や出来事を、単にカテゴリーごとに並べるということはしていません。それぞれの時代のライフストーリーを大切にしています。その代表的な企画展ともいえるのが「Prehistories(先史時代)」です。
古代の人類がどんな価値観をもち、人生を生きていたのか。自分たちのルーツを知るための鍵を、8つのライフストーリーに基づいて、ひもといています。
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「Prehistories」のエントランスではストーリーの主人公が迎えてくれる
ライフストーリーはそれぞれ時代を語る展示物から描き出されています。青銅器時代を語るグランハンマール出身の男。頭蓋骨やDNAから、彼の見た目がどうだったか、食べ物は何を食べていたか、どういうところに住んでいたかなどがわかります。
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「Prehistories」ページにはグランハンマール出身の男の外観が写真で掲載されている。出展:ヒストリスカ公式サイト
自分たちと似ていることは何か。今より幸せな生活だったのだろうか。来訪者はライフストーリーを知ることで、その時代に生きた人たちの人生に想いを馳せます。
また「Prehistories」では展示が2つのパートに分かれており、後半のパートでは主人公が来訪者自身となります。過去と対話しながら、自分が何者かを知ります。
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後半パートでは、さまざまなテーマで過去との対話を促す
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展示エリアのデザインは本物の空港待合室のよう
このパートの展示エリアは、空港の待合室がデザインされています。しかも、アナウンスは実際にストックホルムのアーランダ空港で流れているものと同じサウンドでつくられています。時間と空間を旅するのに、ふさわしい空間づくりも印象に残りました。
大人だけでなく、子どもにとっても楽しい探求の仕掛け
ヒストリスカ展示室には小学生以下の子どもでも展示を楽しめる工夫があります。
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壁のデザインに隠れるように扉がついている。子どもが見つけて楽しむコンテンツのひとつ
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一般の展示も覗き込みやすいよう、床に近いところまで使われている
先ほどの企画展「History of Sweden」でも、壁一面に小さな扉が隠れていたり、低い位置まで使った展示などで、子どもも大人と一緒に探求のために時間を費やせます。訪問した際にも5歳くらいの子どもが仕掛けを発見して開き、母親が読み上げて説明する場面に遭遇しました。
また企画展の一角に動物の足跡のイラストがあり、近くの扉を開けてどんな動物(家畜)かを当てるクイズもありました。
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企画展「Prehistories」の一角にあった足跡クイズ
子どもの探求をサポートする仕掛けとして、ヒストリスカのエントランスには「The History Detectives(歴史探検)」というリーフレットが置いてあります。企画展ごとに問題が用意され、それを探しながら展示を見て答えを手に入れるという自己学習を促すコンテンツです。
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子ども向けの歴史探検リーフレット
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企画展「Prehistories」のためのリーフレット
こちらはヒストリスカのエデュケーターにより必要に応じて制作されています。対象年齢は6歳から13歳の、読み書きを学んでいる学年の子どもたち。クイズに正解すると証明書がもらえます。
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Arkeoteketエントランス
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Arkeoteket内の子ども向け探求スペース。ここにも扉が隠れていた
他にも館内には、子ども向けのインタラクティブなスペースとして「Arkeoteket(アーケオテケット)」があります。赤ちゃん連れのツアーなどではこういったスペースも活用されているようです。
興味に踏み込むための環境づくりが大事
ヒストリスカは史実を知るだけでなく、自分自身で探求するおもしろさも同時に見せているという点で、とてもユニークなミュージアムでした。歴史は文系科目と言われますが、タイムトラベル系の空間展示やライフストーリーの導き方のいずれをとっても、芸術的な創造性もあれば科学的な根拠も必要です。そう考えると、STEM科目だけを切り離すのではなく、自然科学や歴史などにも広げて考えてみる必要があるのかもしれません。
基本情報
名称:Historiska(スウェーデン国立歴史博物館)
開館時間:11:00 ー 17:00(6/1-8/31は10:00開館、水曜は閉館時間が20:00まで延長)
月曜閉館
※公休日または学校が休みの日には開館しています。
基本料金:無料
※コンサートやガイドツアーなどは追加料金が必要となります
住所:Narvavägen 13–17 114 84 Stockholm
(上記情報は2019/8/12現在のものです。詳細は施設の公式ページをご覧ください)
公式サイト(英語):https://historiska.se/home/
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