女の子だってつくれる!まずは興味をもっているところからはじめよう:IT/IoTで活躍する女性に聞く「ものづくり」の楽しさとは

ITやIoTといったコンピューターや電子工作、ものづくりという話になると、男の人が活躍しているイメージをもっているでしょうか?でも実際には、女性で活躍している人も数多くいます。ここでは、そんなIT/IoTの最前線で活躍されている女性お二人に、ものづくりの楽しさとプログラミングや電子工作の世界に入ったきっかけ、これからのSTEM教育などについてインタビューしました。

ちゃんとく(dotstudio株式会社):「ものづくりは楽しい」をモットーに、モノのインターネット(IoT)に関する体験(ハンズオン)イベントの開催や記事執筆、MakerFaireなどものづくり系展示会への出展など、多方面に活動している。

水田千惠(ヤフー株式会社):IoT関連の各種技術を調査するとともに、ハッカソンなどエンジニア向けイベントを通じたヤフーのブランディングに従事。社内外のエンジニアと交流を深めながら、ヤフー内部でのものづくりを推進している。

「ものづくり」の楽しさとは

——まず、お二人がどのように「ものづくり」に取り組まれているかについて教えてください。

水田 ヤフー本社にあるオープンコラボレーションスペースLODGEには、3DプリンターやUVプリンター、レーザーカッターが置いてあるスペースがあって、講習を受講した社員が利用できるんですね。そこを使って、毎週木曜日にMake部という非公式の活動をしていて、毎週ものづくりをしているんです。ハンダごても使えるので、自分のつくりたいものを空き時間を使ってつくったりしています。簡単なものだと、今耳に着けている光るピアスとか、100円ショップのアイテムを使ったライトをつくってみたりだとか。これなんか、100円で売っているボトル、ビー玉、ボタン電池、あとLEDだけでつくったんですよ。

また、最近はMake部に所属する女性メンバーの要望でミシンも設置してあります。猫ミミの光るカチューシャを制作した「コネクト・ミー」というグループがあるんですけど、あれもヤフーのチームで、ミシンを使ったテキスタイル系の電子工作をしているんです。

ちゃんとく 私はdotstudioで「モノづくりは楽しい」ということを広める仕事をしています。つくりかたのノウハウ記事を書いたり、興味をもってもらえるようなおもしろい記事を書いたりしています。また、企業向け、学生向け、エンジニア向けなどのさまざまなイベントで作品を紹介したり、実際に体験できるものづくりイベントを開催したりしています。また私自身、コミュニティやサークルに参加して、楽しむのが仕事の一環になっています。

——実際、ものづくりの楽しいところって、どんなところなのでしょうか?

ちゃんとく たとえば、お風呂にお湯がたまったことを知りたいとき「水位センサー」がいいらしいとGoogleで調べます。それで、似たことをやっている人が「こんなプログラムで動きました」とか書いてないかを調べるんです。わからないことがあっても、インターネットや周囲の人に聞いたり調べたりして乗り越えた結果、「できた!」というプロセスが楽しいんです。できたものを人に自慢したり、すごいね、って言ってもらうのも楽しい。

つくりたいものがあるから。プログラミングと電子工作を学ぶきっかけ

——プログラミングや電子工作って、なんとなくハードルが高い感じがします。

ちゃんとく プログラミングを「学ぶ」という切り口ではなくて、つくりたいものがまずあって、それがたまたまプログラミングが必要だったからやってみた、みたいな考え方がいいと思います

水田 たしかに。自分で「まずやってみる」っていう取っ掛かりができるといいですよね。私の場合は母がハンダごてをもっている人で、アクセサリーが壊れたときにちょっと修理する、っていうのが普通に家で行われていたんです。DIY感覚でちょっとおもしろそうと思ったらまずつくる、というのを母がやってきたのが、今に私に影響を与えているのかもしれません。母がやっているDIYと私がやっているDIYって全然違うんですけど、それでも「自分でつくる」ということ自体を楽しむのは同じ気がしますね。

 

ちゃんとく 私はArduinoというマイコンボードから入ったので、最初はなんの予備知識もなく、「マイコンボード?」「センサー?」という感じで大変でした。周りの人から「Arduino互換を使うといいよ」って言われても「Arduino?」「互換??」みたいなところで戸惑うんですよ。最初のハードルはすごく高かったんです。

Arduino(アルデュイーノ):伊Arduino社が設計・製造しているマイコンボード。オープンソース・ハードウェアとして設計情報が公開されており、数多くの互換機が販売されている。

水田 たしかにいざやろうとすると、「ブレッドボード」ってなに?パンの一種?みたいな(笑)。(電子工作になじみのない人にとって)わからない単語で話しをされると不安になりますよね。

ブレッドボード:電子回路の試作・実験用の基板のこと。穴に電子部品やワイヤーを抜き差しすることで、ハンダ付けなしに電子回路をつくれる。

ちゃんとく 今はmicro:bitなど敷居が低いマイコンボードが増えてきていて、(電子工作の)ハードルはだいぶ下がってきていますね。micro:bitになにかをつなぐときはワニ口クリップを使ったりして、ハンダ付けやブレッドボードでの配線を意識しなくてもいいようなつくりになっています。なので直感的に(電子工作が)やれるんじゃないかな。

micro:bit(マイクロビット):英BBCが主体となり開発した教育向けマイコンボード。2016年にイギリスの11〜12歳の子ども100万人に無償配布された。2017年夏、日本でも発売開始。

敷居が下がってきた最近のマイコンボード

——では、マイコンボードをいくつか見ていきましょう。この四角いのはソニーのMESHですよね。

水田 はい。MESHはスマートフォンやタブレット向けのアプリが使いやすく、グラフィカルなインターフェイスなので子どもやプログラミング未経験者でも簡単にものづくりが楽しめます。たとえば机の引き出しにMESHの明るさ(Brightness)タグを入れ、誰かが開けるとGmailを通してメールで通知したり、スマート電球(Philips Hue)が点灯する、といったIoT体験ができるプログラムがつくれます。

MESH:ソニーが発売するブロック形状のBluetooth電子タグ。電子工作やネットワークの専門的な知識がなくても、センサーを活用した仕組みをつくれる。

——小型の液晶が付いているこれはなんですか?

ちゃんとく 私が最近よく使うObnizという初心者向けのマイコンボードです。Wi-Fi接続の設定にスマートフォンすら不要で、Obnizの画面上でWi-Fiのアクセスポイントを選択して、パスワードをジョグダイヤルで入力すれば接続設定が完了します。

プログラミングをするときもパソコンからケーブルをつないで書き込む必要がなくて、専用ホームページからボード固有のIDを打ち込むだけで、(インターネット経由で)プログラムが自動更新されて動き出すようになっています。

Obniz(オブナイズ): CambrianRoboticsの開発したIoT開発ボード。Wi-Fiが搭載されており、クラウド上のサーバーとつながっているのが特徴。

——これが、さきほど話題に出たmicro:bitですね。

水田 micro:bitはLEDが搭載されたマイコンボードのひとつなんですが、インプットとアクションがボード1枚で完結しているのが特徴です。Scratchみたいにブロックプログラミングができるんですけど、プログラムをスマートフォンからBluetoothで簡単に転送できるんです。このmicro:bitをポケットに忍ばせておいて、待ち時間に子どもたちがヒマそうにしていたら、こんなのあるけど名刺をつくろうよっておもむろに取り出すんです(笑)

スマートフォンで子どもたちの名前をプログラミングしたら、その場で転送してmicro:bitに表示させる。誰でも触れて、動くのが見えて、「これおもしろいかも!」って言ってもらえるまで15分。こういうのはすごくいいなぁと思いますね。

——この灰色のやつは、なんですか?

水田 これはM5StackGrayで、9軸センサー(地磁気センサー、加速度センサー、ジャイロを併せもったセンサー)搭載のマイコンボードです。M5StackはBasic、Gray、Fire、Goの4種類が出ていて、どれもディスプレイが付いていて、Arduino互換機と共通の開発環境でプログラミングができるので、比較的扱いやすいくて、最近はよく使っています。

M5Stack:深センM5Stack社の開発したマイコンボード。カラーディスプレイ、スピーカー、ボタンを備えたケースに収められている。BluetoothとWi-Fiを搭載。

ウエハースのようにケースを縦に積み重ねることができるので、たとえばバッテリーを追加したりとか、通信やセンサーの機構を入れたりとか拡張しながら使えます。

——ところで、こういったものづくりのノウハウって公開されているんですか?

ちゃんとく dotstudioでもブログメディアをやっているんですけど、文字の情報だけだと限界があるんですよね。たとえば配線をわかりやすく見たい、細かい操作手順が知りたいとかいう要望があるんですが、現状のブログメディアだと難しい部分があります。エンジニア以外の人に向けてもハンズオン(体験イベント)を開催していきたいんですが、イベントだけではカバーしきれない部分もあるんですね。そこで、もう少し広く世の中に伝わるコンテンツをということで、動画配信をはじめました。

目指しているのは、クックパットみたいな「レシピ」サイトです。これをつくりたいと思ったときに見てもらって、さっとつくれて、かつそれを繰り返していくとものづくりに自然に触れ合える、というウェブサイト。興味のなかった人も、なんとなく訪れて「え、こんなことができるんだ」という入り口になればと思っています。

子どもの興味からつながる、親と子のテクノロジー体験

——IoTやものづくりって子どもでもできるんでしょうか?

ちゃんとく この前IoTLTというIoTエンジニアのコミュニティのイベントがあったんですが、小学5年生の男の子が史上最年少で発表したんです。Googleのスマートスピーカーに「Ok Google、整地して」って言うと、マインクラフトのゲーム画面上で整地してくれるという。最後は「パパがつくりました」というオチが付いたんですが(笑)。

水田 2017年に、アメリカ・サンフランシスコのものづくりイベント「MakerFaire Bay Area」に行ったんです。日本の子ども向け展示っていうと「子どもが楽しむものを大人から提供する」という感じなんですけど、ベイエリアだと視点が逆で「子どもが自分で楽しんだものを発表している」みたいな感じで、「大人が子どもから学ぶ」という感覚がありました。「こういうパズルを考えてみたんだ」とか「こういう靴を考えたんだけどどう?」って子どもからプレゼンするんです。大人として「うーん、かっこいいかなぁ」「ここになんかくっついているのがいや!」とか童心に返って会話するのが楽しかった。

——小学生のお子さんのいる親に対して、お二人からアドバイスをお願いします。

ちゃんとく プログラミングやIoTは遠い世界の話に感じると思うのですが、全然そんなことはありません。お子さんが興味をもっている、女の子だったら料理とかお化粧道具とか、お洋服選びとか。それらにテクノロジーを掛け合わせる、というところからはじめてみるといいと思います

たとえばお料理しようというとき、レシピを見ながらやりますよね。そんなとき、エプロン型デバイスの表面をこするとスマートフォンの画面をスクロールできるとか、興味をもちはじめるきっかけとなる身近なテクノロジー体験ってあるんですよ。ファッションでも、簡単に光るピアスをつくったり、Suicaなど非接触ICカードのカードリーダーからの電波に反応して光るステッカーをネイルにのせて楽しむ、みたいなこともすごく身近な遊び方かなと思います。自分の興味の分野と掛け合わせる形でちょっとだけテクノロジーをかじってみるというのがオススメですね

水田 今はテクノロジーに触れられる場所ってたくさんあるんですが、その中で一番オススメしたいのはお台場にあるMiraikan(日本科学未来館)です。大人が見てもすごく秀逸なのが、インターネットの仕組みを模型化している物理モデル展示。それ以外でも、自分が動くと光るとか、アクションに反応する不思議なものに触れてながら、お子さんがどんなことに興味をもっているのか親として知る、というのが大事なのかなって思います

お子さんがプラレールが好きで電車を走らせるのがすごく好きだとすると、その電池をMabeee(スマートフォンから制御可能な単三乾電池型のIoTデバイス)に変えれば、速さをスマートフォンで変えられたりするんですよね。子どもが好きなものから親がアンテナを伸ばして情報をひろって(テクノロジー体験の)道具を探すことが大切ですね

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DIY感覚でつくりたいものがあるから。IoTの最前線でテクノロジーを手探りで試してきたお二人の理由はとてもシンプルでした。ものづくりのハードルが下がってきた今、子どもの興味関心分野にあわせて、無理なくテクノロジーに触れさせるのがいいのではないかと強く感じました。